09/08の日記

04:10
奥様は17歳#7(おわり)
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これまでのおはなし
奥様は17歳#1
奥様は17歳#2
奥様は17歳#3
奥様は17歳#4
奥様は17歳#5
奥様は17歳#6




 映画が済んで外に出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。それでもまだ時間は七時過ぎ。通りには人が大勢行き来している。

「これからどうしよう?」
 
バッグから淡いブルーのマフラーを取り出して彼女が訊ねた。

「・・・悪いけど、オレ帰る」
「えっ」マフラーを掴んだ手が止まり、大きく見開かれた茶色の瞳がオレを見つめる。

「ごめん、ちょっと用事を思い出して」
 
自分でも呆れるほど幼稚な言い訳だった。
けど、幼稚で最低だって思われたって仕方ない。実際そうなんだから。

「・・・私、何かした?」
 
当然のように、オレのつまらない嘘を見抜いたらしい彼女の声は震えていた。

「いや。何もしてねぇ」
「じゃあどうして、」
「ごめん。ほんとにごめん」
 
それ以外の言葉が見つからない。申しわけなくて、まともに顔も見られなかった。
にぎやかな街のざわめきの中、彼女はそれっきり口を閉ざした。
そして、送って行くと言ったオレに大丈夫だと断って「今日は来てくれてありがとう」と微笑んだ。
 
小さくなる彼女の後ろ姿を見送りながら、最低すぎる自分の行動に気分が悪くなってくる。
けど同時に、ずっとはぐらかしてきた気持ちに嫌というほど気づかされ、これ以上自分をごまかすことはできないとおもった。
 オレはそれからすぐに駅に向かい、自宅とは反対方面行きの電車に乗った。
 
 

 


*****
「ーーはぁ」もう何回ため息をついただろう。
たった二週間ほど帰らなかっただけなのに、半年近く暮らしていたマンションが初めて来た場所のような気がして足がすくむ。
すると、ここまで来てまた躊躇するオレの背中を押すように、奥のエレベーターが降りてきてドアが開いた。
 
 今日は休みのはずだから、きっと一日引きこもってたに違いない。どうせそこらにあるものを適当にしか食べてないだろうし、オレがなんか作ってやるとか言って強引に上がりこんでしまおう。電話やメールで遠まわしに連絡をとるより、何事もなかったような顔して帰ればいいんだ。
そしてちゃんと言おう。一年待つって。でもこれから隠し事はしないでくれって。
 
 エレベーターの中であれこれ考えてるあいだにドアが開いた。
足を踏み出した途端、口から心臓が飛び出すんじゃないかと思うぐらい鼓動がやばい。ゆっくり部屋に近づいて大きく深呼吸したあとインターホンを押した。
そうしてボサボサの髪をした無精髭の先生が目の前にあらわれるのを待つ。
 
ーーけど、いくら待っても返事がない。
もう一度、二度、三度と鳴らしてみたが、やっぱり反応はなかった。
鍵を持っていないオレはドアを開けることもできず、しばらくそこで突っ立っていたが、もしかすると、とおもい地下の駐車場へ降りた。
 
案の定駐車スペースに先生の車はなかった。
「どこ行ったんだよ」歩くのが嫌いだから車で近くのコンビニにでも行ったのかとおもったが、待てどくらせど帰ってこない。
オレは言いようのない不安を感じはじめた。
ーーもしかして。
頭に浮かんだ妄想をかき消そうとするが、一度考え出すとこの二週間ほったらかしにされたのも、いつも引きこもってる休日の晩に出かけてるのも、何もかもがすべてひとつの言葉に結びついてしまう。
『浮気』
そう考えるといてもたってもいられなくなって、ポケッ トから出した携帯の短縮キーを連打する。苛々しながら耳にあてるが、呼び出し音が虚しく響くばかりで一向に出る気配はない。
「くそっ!」一度切り、またかけ直す。そしてもう一度。
そんなことを繰り返してるうちに、自分が惨めすぎて泣きそうになってきた。
 もういやだ。離れてたからこんな…。
それからどれくらいそこにいただろう。行くあてもないオレは柱の陰に身を潜め、車が戻ってくるたび目を凝らしていたが、だんだん腹が立ってきた。
 なんで自分だけがこんな必死になってるんだ。

「もういいっ。浮気でもなんでも勝手にしろ!」

自分で言うのもなんだが、オレは元来気が短い。
誰もいない駐車場で捨て台詞を吐いて、そのままマンションをあとにした。



*****
 人影もまばらな休日の夜の駅。電車を降りると、もうすぐ三月だというのに雪が降り出しそうなくらい寒くて、ふいに彼女が持っていた暖かそうなマフラーが浮かんだ。
彼女はちゃんと家に着いただろうか。
頭の片隅でそんなことを考えながら、ダウンのジッパーを上げ改札を出る。
駅前のタクシー乗り場やコンビニを通り過ぎ、しばらく歩いて住宅街に入ると、途端に人通りが途絶えた。
薄暗い街灯をたよりに人気のない道を進んでいると、道路脇に路上駐車の車が数台停まっていた。昼間は駐禁だのなんだの煩いが、夜の間近所の住民が停めるのは暗黙の了解らしく、常に何台かは停まっている。
 
その中に・・・。
見覚えのある黒のクーペを見つけて足が止まった。
「・・・・・・」
車内が真っ暗で明らかに無人の他の車に比べ、その車だけ暗闇の中にぽつんと赤い光が灯っていて、特徴のある低いエンジン音が響いている。
「、、嘘だろぉ」
一歩二歩、引き寄せられるように足が進み、戸惑うことなく運転席を覗いた。
窓越しに目が合う。すると先生はオレが近づいてくるのを見ていたのか、驚きもせず黙って助手席を指さした。
外出してたのはここに来てたからか。一体どれくらいの時間待ってたんだろう。 

助手席側に周りドアを開けると、煙草の煙りと匂いが一気に襲ってきた。思わず手を振って汚れた空気を外に出す。

「絶対肺ガンで死ぬぞぉ」

咳こみながら座ると、目の前の灰皿には吸い殻が山のように積まれていて、手には火のついた煙草が一本。

「なんで電話に出ねぇんだよっ」
「電池切れでな」

うそだ、とおもった。

「それより、」
「え?」
「年上の女とデートはどうだった」
「!なっ、なんでそれ・・・」
「生活指導部の情報網なめんるじゃねぇ」

ふいをつかれ、焦って言葉がでてこない。一体どこまで知ってるんだろう。

「キスぐらいしたのか」
「キッ・・・、するわけねぇだろっ!」

会って数分で、すでにむこうのペースに呑まれかけてる。これ以上この件に関して突っこまれるのは耐えられない。話を変えないと。

「そんなことよりっ、なんで連絡くれなかったんだよ」
「おまえが一人で考えたいって言ったんじゃねぇか」
「それは、そうだけど」
「もうすこし早く来るつもりが、いろいろと忙しくてな」

それってはじめから迎えに来てくれるつもりだったってことか。
ーーほったらかしにされてたわけじゃなかったんだ・・・。

「先生。オレあと一年こっちにる。ちゃんと卒業して先生んとこ行くから。だからーー」
「なんだ」
「だからこれからはガキ扱いしねぇで、オレになんでも話すって約束してくれ」
「ガキ扱いしねぇのは無理だ。実際ガキだしな」
「ッ!」

微妙な空気が流れる中、先生は手にしていた煙草を山積みの吸い殻の上で消した。白い煙がゆらゆらと立ちのぼる。

「まぁ、それぐらいなら約束してやってもかまわねぇ」
「だからなんで最初から素直にそう言えねぇんだよ」

満杯の灰皿からあがっていた煙は、糸みたいに細くなって消えた。それを合図のようにしてオレたちはどちらからともなく顔を寄せ、唇をかさねた。
いつも不思議におもうのは、煙草の煙は苦手なのに、キスした時に香るこの匂いは嫌いじゃないんだ。



「考えたんだがな、」
「なにをだぁ」
「通い妻ってのも悪くねぇな」
「もしかして通い妻ってオレのことか?」
「他に誰がいるんだ。まぁ確かに週一はキツいが、そのぶん中身の濃い夜、」

またはじまった。

「なぁっ!もういいから早く帰ろうぜ、オレ腹減った。そっちもまだだろ、メシ」
「あぁ、言われてみるとそうだったな」
「帰ってなんか作るから」そう言うと先生は、

素直にギアに手を伸ばした。

 つきあいはじめて約半年。
最近ようやく操縦法がわかってきたような、そんな気がする。









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 続きをアップしますと言いながら、今日まで遅くなってしまってすみませんでした
そして、これの前の「高校教師」を書き始めたのって、多分5年とかそれくらい前だったので、まだ携帯電話だったりメールだったりと、今読むと色々おかしなところがあるでしょうが、それもすみません

ていうか、そもそもこれザンスクでなくてもいいじゃないのって話ですけど、当時(も今も)パロが好きで、こういうのばっかり書いてたなと笑
原作の二人があれなもんで笑、自分が書くやつぐらいは・・・って気持ちが強かったんだとおもいます
単に二次創作のパロ好き脳ってのいうのが正解かもしれませんが(´д`|||)

とにかく、今も読みづらい文書がさらに読みにくい上に拙い文章ですみません
書いた日付もまちまちだし、ほんとうに読みにくかったとおもいますがすみ以下略

2015、9/8

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