08/10の日記

18:00
奥さまは17歳#6
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【奥さまは17歳#6】
※スクアーロくんが女の子とデートする場面です。ダメだと思われる方はやめておいた方が…そしてXANXUS先生は登場しません






「うそだろぉ…」

自分が今のいままでしていた恥ずかしい行為をおもい、思わずそうつぶやいた。
恐る恐る携帯を開くと、メールが一件届いていた。
急いでクリックすると、そこには見たこともないアドレスが表示されていて、一気に緊張が解ける。

「誰だぁ、これ」半分ムカつきながら本文を読みはじめると、それは中庭で一緒に写真を撮った三年の女子からのメールだった。

『突然ごめんなさい。このまえは一緒に写真を撮ってくれてありがとう。メールが来て驚いたと思うけど、私の友だちがスクアーロくんのお友だちにアドレスを教えてもらいました』

…お友だちぃ?お友だちって…、あの野郎勝手に…!
ニヤけた奴の顔が浮かぶ。

『それで、ちゃんとお礼を言いたいし、もしスクアーロくんさえ良かったら今度の日曜会えませんか?お返事待ってます』

三度読みかえした。
これって…もしかして、デートに誘われてるってことなのかぁ?いや、もしかしなくてもそうだよな。

『彼女、おまえが入学したときから好きだったらしいぜ』

あの時あいつに言われた言葉が浮かぶ。携帯の画面に目を落としたまま、オレは考えた。
彼女のことはこのメールが来るまで名前すら知らなかった。ただ笑顔がかわいかった印象ぐらいで、正直それ以上の感情はなかった。
――けど…。

もう一度メールを読み返して、彼女に返事を送った。送信キーを押す時、すこしだけ緊張した。





「スクアーロくん!」

待ち合わせた時間より五分ほど早く着くと、むこうはそれより前に来てたみたいで、後ろから声をかけられた。

「オレの方が早いかとおもった」

すると彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。

「昨日眠れなくて…。だから早く着いちゃった」

白いコートを羽織った姿は、このまえ見た制服の時よりも、ずっと大人びて見えた。

「えっと…、どこに行く?」
「私はどこでもいいよ」

しまった…!こういうのに慣れてなくて、順序的なもんがまったくわからねぇ。こんなことなら、あのバカに電話して、一般的なデートの流れを聞いときゃ良かった。アドレス教えたのはあいつなんだし、責任はあるはずだ。けどまさか、今ここで電話するわけにもいかねぇし。

「…じゃあ、とりあえずお茶でも飲む?」
「うん」

我ながらひねりのない発想だとおもいながら、けどそれ以外考えつかず、彼女と二人で歩きだす。
休日の午後、街は人で溢れていた。
しばらく並んで歩いてると、自然に笑って話してる自分に気づいた。まるで前から付きあってる、ほんとうの彼女だと錯覚しそうなほど普通に話せて、もしかすると、先生といた数ヶ月の方が、オレの妄想だったんじゃないかって気がしてくる。

それからコーヒーショップでひとしきり話したあと、どちらからともなく映画を観ようってことになった。
ありがちすぎる展開だとはおもったが、他に気の利いたことも見つからねぇし、何より彼女が楽しそうにしてるから、まぁいいかぁ。

店を出て、近くのショッピングモールの中にある映画館に移動する。
そういえば、先生と来てから、映画なんて観てなかったっけ…。
ふいにそんなことを思い出し、現実に引き戻されそうになって、オレは慌てて考えるのをやめた。



「今からだとこれとこれと…、あとアニメしかないね」

上映スケジュールが書いてあるボードを見て、彼女が言った。

「スクアーロくんどれが観たい?」
「え、オレ?」

真っ先に好きなアニメの劇場版ポスターに目が行くが、まさかここでこれを選択するわけにもいかねぇ。

「オレはなんでもいいから決めて」

優柔不断男の典型みたいなことを言うと、彼女はボードを眺めて「じゃあ、これでいいかな」と、夕日をバックに海辺で男と女が抱き合ってるポスターを指した。

…だよなぁ。普通女子ならそれを選ぶんだよな。
どうせなら、もう一本のホラーにしてほしかったとおもいながら、オレは曖昧に頷いた。


中に入ると、あまり広くない場内の座席は結構埋まっていて、気のせいか、カップルが多いような気がした。
やっぱりあのポスターに釣られたのかとおもってると、彼女もそれを感じたのか、うつむきかげんでオレの後ろをついてくる。

「あ、席ここだ」
「うん」

ちょうど列の真ん中あたりだった席に座ってみると、見事に両端ともカップルに挟まれていて絶句した。
顔を寄せ合いパンフレットを見ながら笑いあってたり、もう片側の奴らは始まる前から手を繋いでる。
オレと彼女の間に、微妙に気まずい空気が流れる。会話もないまま、なんでもいいから早く始まれとスクリーンを見ていると、彼女が独り言みたいにつぶやいた。

「…なんだか緊張しちゃう」

それを聞いて、これは返事をするべきなのか、それとも聞こえなかったふりをしてスルーするべきなのか、一瞬悩んだ。
ここで気軽に「大丈夫」って言えるほど、オレは強靭な精神を持ち合わせてねぇ。それにきっと、いま何か言うとボロが出る。

どうしようかと迷ってたら、ブザーが鳴り、場内の証明が落とされた。
スクリーンの幕が開くのを見ながら、オレは胸をなで下ろし、同時に自分の不甲斐なさを思い知らされた。

すぐに本編前の予告が流れはじめると、あちこちで聞こえてた話し声は止み、場内は途端に静かになる。
しばらくそれを観ていると、オレの隣の奴らが何やらごそごそしはじめた。さっき手を握ってたあのカップル。あたりが静かすぎて、ひそめたつもりの声も隣のオレには丸聞こえで。

「ちょっとぉ、だめだって」
「どうして?いいだろ」

そんな声を気にするなって方が無理で、オレは暗がりの中そっと隣に目をやった。すると、男の手が堂々と女のスカートの中に…。

う゛おぉぉおぃっ!こいつらぁああ!ナニやってんだぁああ!

オレの心の叫びが奴らに届くはずもなく、本人たちはどんどん盛り上がっていくように見える。
頼むから彼女が気づきませんように。そう願い、オレは少し前屈みになって、隣のバカップルが彼女の視界に入らないようにした。

まったく、イチャつきてぇんならよそへ行けぇ。

呆れてそうおもった時、突然その二人が自分と先生の姿と重なった。意識的に考えるのを避けていたあの時の記憶。

そうだ。オレたちだって周りに人がいたのに、おんなじようなことやってたじゃねぇか…。

一度思い出してしまった記憶はとどまることを知らず、頭の中であの時の二人が再生される。

オレ…、なにやってんだぁ。

もう隣の迷惑なカップルも、映画も、彼女のことさえ何も考えられない。
オレは、先生のことで一日中頭がいっぱいの、女々しい自分をどうにかしたかった。そんな時、メールをもらって、彼女と会えば何かが変わるかもしれないとおもった。年上の、しかも男を好きになったのは気の迷いで、やっぱり自分は普通の女の子が好きなんだとおもえるかもしれないと。 男としての自分を、試したかったのかもしれない。

…ごめん。

何も知らず、隣でスクリーンを見つめる彼女に、心の中でつぶやいた。





8/10

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