08/08の日記

18:47
奥さまは17歳#5
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【奥さまは17歳#5】




「俺はおまえの親に卒業したらけじめをつけるって約束した。だからなにがあっても卒業はさせる」
「そんなこと知らねぇって!…なぁ先生、頼むからオレも一緒に連れてってくれ」
「何度も言わせるな。それは無理だ」


 それからはもう堂々巡り。
お互い一緒にいたいって気持ちは同じなのに、それ以外はまったく考えが違うし、その上二人とも頑固だから話合いは平行線のまま。どこまで行ったって交わることなんてあるはずなかった。

どれくらい同じようなことを言い合ってただろう。
最後に先生は、手のひらを額にあて、ため息を吐いてソファーから立ち上がった。

「どこに行くんだよ?まだ話は終わってねぇだろ!」
「いくら話したっておまえが納得する結論なんてでるわけねぇ。俺はもう寝る」

そう言い残してリビングを出ていく先生の後ろ姿を、オレは散乱した洗濯物に囲まれながら見つめる。
追いかけて言い合いを続けても、なんの解決にもならないことは自分だってわかってたし、それに、これ以上しつこくすると、きっとむこうは本気でキレるだろう。
だから、オレは追わなかった。

卒業のことは、親にああ言った手前もあるし、先生の言うことが正しいのかもしれない。けど、どっちが正しいとか正しくないじゃなく、オレが納得できないのは、移動のことをずっと隠されてたこと。
自分が信用されてないみたいで悔しかったし、先生にとってオレはどういう存在なんだろうって、考えずにはいられなかった。
ただひとつはっきりわかってることは、オレがどんなに悪あがきしたって、きっと先生は一人で行ってしまうってこと。
そんなことを考えれば考えるほど、深みにはまっていくような気がした。明日の朝、先生が起きてきて顔を見たら、きっとまた「連れていってくれ」って、同じことを繰り返すだろう。


オレは散らばっていた洗濯物を全部たたんだあと、その上に先生あてのメモを置いた。
家を出るとき母親に言われた「いつでも帰ってきていいのよ」って言葉が頭に浮かぶ。まさかこんな早く現実になるなんて…。



 次の朝、オレはいつもより早く学校に向かっていた。
きのうの夜中、突然帰ってきたオレを親は黙って迎えてくれた。けど、なんとなく朝から顔を合わせずらくて、だから二人が起きる前に出かけることにした。

ラッシュより少し時間がずれただけで、車内はゆったりしていて、昨日ほとんど眠れなかったオレは、うたた寝していて危うく降りる駅を逃しそうになった。
階段を降り、改札を出ようとしてふと顔を上げると、正面にある大きな時計に目がとまる。すると偶然いつも先生が起きる時間とおんなじで、途端に一人で起きられたか気になりだした。
オレが起こすようになってから、先生は自分の目覚ましを掛けずに眠ることもあって、それに昨日はあんなことがあったから、そのままベッドに入ってしまったんじゃないか…。そう思いはじめるとどうにも気がかりで、電話してみようかと携帯を出し、短縮キーを押そうとして指が止まる。

もし、先生が怒ってたら…。

そうおもうとなかなか押す勇気が出なくて、けどもしまだ寝てたら…。そんなことを考えて、携帯を持ったまま迷ってると、いきなりそれが手の中で震えだし、思わず声をあげそうになった。

…ちゃんと起きてたんだ。

こんな時間に着信なんて、画面を見なくても誰からなのかわかる。幸いまだ他の生徒の姿はまばらで、みんな駅から出るとそのまま学校に向かい歩いていく。
オレは大きな柱の陰に移動して、一度深呼吸してから通話ボタンを押した。

「…もしもし」
『どういうつもりだ』

その第一声で、先生の機嫌が今どういう状態か、手にとるようにわかった。寝起きなのか、普段より少しかすれた声。もしかしたら起きてすぐに電話してきたのかもしれない。

「メモに書いたとおりだ。しばらく一人で考えたくて…」
『それは、もうここには帰ってこねぇって意味か』

オレはその質問には答えなかった。帰らないって言ったら、そのまま全部終わりそうな気がしたから。

「そっちにしたらくだらないことかもしれねぇけど、オレはやっぱり先生の口から聞きたかったんだ」
『……』

携帯を耳にあてたまま、むこうの言葉を待つ。
すぐ前の道路で、横断歩道を無理に横切った自転車にタクシーがクラクションを鳴らした。それがうるさくて、先生の声を聞き漏らさないよう片側の耳を押さえるが、むこうはまだ何も言わない。
「…先生…?」オレはたまらず話しかけた。

『こんな真似したって俺の考えはかわらねぇ』
「―あぁ、わかってる」

それは、はじめからわかってた。
先生が一度言い出したことを曲げるはずないってこと。オレはそういうとこが好きなんだし、もしもこれで一緒に連れてってくれるなんて言い出したら、幻滅してたかもしれねぇし。
自分でも面倒くさい奴だっておもう。けど、どうしても今は帰る気になれなかった。それはオレのプライドなのかもしれない。


『スクアーロ、俺は、』

先生が何か言いかけた時、ピピッという電子音が響いた。そういえば昨日充電するのを忘れてた。

「ごめんっ、充電してなくて携帯切れそう、」

ピー…。最後の言葉を言い終わらないうちに、情けない音をたててバッテリーが切れた。
これじゃもう、かけ直すこともできねぇ。




 その日、先生の授業はなかったが、廊下で何度かすれ違った。ほかの生徒や教師が行き交う中、お互い目も合わさず通りすぎる。
オレはそれが意外だった。先生の性格なら、こっちが目を逸らしたって、お構いなしに視線を向けてきそうなのに、そうじゃなかった。

避けられてる?やっぱり怒ってるのか。

自分でまいた種とはいえ、こんな気まずいおもいをするために出てきたんじゃないのに…。
なにかが少しずつ、悪い方向へ動きだしてるようで、オレは早くも後悔しはじめていた。




 放課後、駅前で友だちと別れたあと、いつものように反対側のホームには行かず、そのままうちへ帰る。献立を考えることも、制服のままスーパーに寄ることもない日は何ヶ月ぶりだろう。
夕方仕事から帰った母親に「もうケンカしたの?」って冗談っぽく振られて、笑ってごまかすしかなかったが、それ以上なにも聞いてこなくて助かった。
「ヒマだしなぁ」そう言って料理を手伝うと、今まで何もしたことなかったオレの包丁さばきを見て、母親は目を丸くした。

晩飯のあと、すぐに部屋に戻り、真っ先に携帯を確認する。
でも、メールも電話も着信はない。期待してたわけじゃないけど、思わずため息がこぼれた。
このまま先生から連絡がなくて、オレの方からもしなかったら、終わりになってしまうんだろうか。

その気がかりは一日二日と過ぎていくうち、どんどん大きくなっていった。
次の日も、その次の日も連絡はなくて、新しい学校のことで忙しいのか、授業以外で先生の姿を見ることも少なくなっていた。
ちゃんとメシ食ってるだろうかとか、眠ってるだろうかとか、気がつくと、いつも先生のことばっかり考えてる。
何度かこっちから電話しようとしたけど、もしむこうがオレに愛想をつかせてたら…っておもうと、怖くてできなかった。

―こんな想いをするんなら、出てくるんじゃなかった。
寂しい…。

「先生…」つい、そう言葉にだしてしまうと、たまらなくなって、途端に身体の中でなにかがざわざわしはじめた。
オレは吸いこまれるようにベッドに腰をおろし、そのままシーツに倒れこんだ。
身体が熱い。
制服のまま、ズボンの上からそこに触れると、すでに反応しはじめていて、手のひらをゆっくり動かすと思わず声が漏れた。

「…はっ、…」

こんなことしてるオレを見たら先生はなんて言うだろう。
そう考えると、恥ずかしいとおもう反面、そこはますます熱くなった。
やっぱり先生が言うように、オレってMなのかぁ…。

手の動きが強くなるにつれ、たまらなくなって腰を浮かせて下着ごと膝下まで下ろす。むき出しになったそれを手のひらで包みこむと、ぐんと張りを増した。
…もう止まらねぇ。

「はッ、…んん、はぁあ…ッ」

先端から垂れる体液を塗りつけるようにして上下に扱くと、身体中の神経がそこに集中したみたいな感覚になって、腰が勝手に浮いていく。
かたく目を閉じて、いつも先生がしてくれるみたいに、親指の先で先端の割れ目をゆっくりなぞると、粘った液体がとろとろと溢れオレの指を濡らす。

「あ、あぁぁっ…、せ、ん…せっ!」

頭の中で、先生の指がオレのを強く激しく扱いてるとこをおもいながら、夢中で手を動かした。そしてもう片方の手をシャツの裾から滑りこませて、人差し指で胸の突起を緩く擦ると、身体がびくんと跳ねて爪先にまでぐっと力がはいる。
ぐちゅぐちゅと、手の動きに合わせるように次第に大きく漏れる水音を耳にしながら、熱い舌先の感触を思いだし我をわすれて胸を弄ってると、突然耳の奥に先生の声が響いた。『スクアーロ…、スクアーロ。 愛してる』

「やっ、んんんっ、オレもっ!オレも愛し… はあぁぁっ、…」



 たまっていた欲を吐き出してしまうと、言いようのない虚さが襲ってきた。
こんなこと…、こんなことしたいんじゃねぇ!

力が抜けた身体を起こし、ティッシュで汚れたところを拭いてたら、机に置いてた携帯のバイヴが鳴って、オレは飛び上がりそうになった。






8/8

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