東城大学病院

□ありがちな夜。
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『俺、喋りませんから、そいつのこと考えて下さい』
そう言って以来、兵藤は本当に言葉を発していない。無言の凌辱者の下で白い背中には紅い跡が無数に散って行く。体内を犯される感覚に快感を覚えていることを、硬く濡れた性器が示していた。
「…あぁッ」
甘い声。こんなに淫らな声を、誰に聞かせた?
田口を愛しく思う程に、どす黒い嫉妬が込み上げて来る。
一際激しく突き上げると、田口が高い声を上げてシーツをぎゅっと握り締めた。けれど、兵藤の手が意地悪く田口の性器の根元を握り、射精を阻んだ。
「ひぁッ…!や、離して」
枕に顔を付けたまま、苦しげに頭を横に振ったから目隠しが解けてしまった。
無言の凌辱者はその懇願を無視して、射精を阻んだまま前立腺を激しく攻め立てた。
「ああぁッんう、や、ダメ、苦し…っ離してぇッ」
尻だけを高く上げたいやらしい姿勢で、涙を溢しながら懇願する。先輩の威厳も医師の知性も何処かに落としてしまったようだ。
…喉が渇く。
「イきたい?」
久しぶりに言葉を発した。
「んぅう…ッイきたい…頼むから、もう…っ」
田口の肩を掴み、強引に前を向かせた。
ベッドの枕側だけ、鏡張りの壁。
快楽に溺れた淫らな顔が映っていた。
「見て下さい…エロい顔」
「や、やだ…」
顎を少し乱暴に掴んで、俯くのを阻止する。
「駄目ですよ、逸らしちゃ。先輩は今、男に尻孔犯されてこんなエロい顔して喜んでるんですよ」
「ッや…だぁっやめ」
耳の後ろに唇を付けて、悪魔のように囁いた。
「犯してる男はあなたの好きなヤツじゃない。ただの後輩です。あなたは今から、好きでもない男に犯されて…イクんですよ」
そしてきつく締めていた指を弛め、今度は愛撫を加えながら、前立腺目掛けて激しく腰を打ち付けた。
「…!やだ…!ッあ、ああダメッやあぁああッ!」
予告通りに迎えさせられた絶頂の後、田口は涙に頬を濡らしたまま意識を手放していた。

隣で寝顔を見詰める。それだけなら、今まで何度もあったことだ。けれど、至るところに散らした情交の跡。決定的に、今までとは違う。もう戻れない。
『お前はコレで気が済むのか?』
声が甦る。
「…気が済むどころか」
呟いて、俯く。

夜の街の一角、恋に苦しむ男が一人。それだけのこと。
笑ってしまいたい程に、よくある話だ。

end.
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