東城大学病院

□ありがちな夜。
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「すみません先輩、俺酔ってます」
「何言って…!」
首筋に顔を埋め、きつく吸った。田口の体が跳ねる。兵藤の興奮は限界まで高まり、勢い任せに田口を床に押し倒した。固く冷たい床に裸の背を打ち付けて眉根を寄せる田口に益々欲情した。再び肌に喰らい付く。肉食獣が草食動物の喉笛を仕留めるように、大きく口を開けて歯を立て、舐め上げ、きつく吸った。
「っはあッひょうど…やめ…ッ」
「やめません。…すみませんけど、もう止まらないんで」
精一杯の抵抗をする腕を両手で床に押し付けて、鎖骨に、胸に、顔を埋めてはその肌に跡を残した。その度に震える身体。
目眩がする程、血がたぎる。
そして、今まで夢の中でだけ繰返し紡いできた言葉が、思わず溢れ出た。
「先輩…好きです」
言ってから、しまったと思った。だが、どちらにしても既に取り返しの付かないことをしてしまっているのだ。今更慌てた自分を嘲笑する。
不意に、抵抗が無くなった。
「…?」
まさか、自分のどさくさの告白に反応したのだろうか。田口の顔を覗き込んだ兵藤は…何故か、泣きたくなった。
田口は、人形のように無表情で、その目はここに有るものを何も映していなかった。…目の前にいる兵藤も含めて。
「先、輩…?」
何処を、見ているのですか?…誰を、見ているのですか…?
人形の瞳が、此方に向いた。ギュッと心臓を掴まれたような錯覚。
「…お前は、コレで気が済むのか?」
場にそぐわぬ冷静な声で問い掛けられ、戸惑う。
「…判りません。ただ、先輩が欲しくて仕方がないんです」
巧い言葉が言えたら良いのに。馬鹿正直に答えると、田口は目を伏せて溜め息混じりの小さな声で
「好きにしろ」
と言った。


高級、とまでは行かないが安さを売りにしてはいないラブホテルのシーツは、本物の絹かと思うくらい肌触りが良く、快適だった。
「背中が痛い」と言う田口に謝ってベッドに移動し、改めて抱き締める。
「先輩、これって、今夜限定ですか?」
「お前がその方がいいなら、限定だな」
「俺が、今後もお願いしますって言ったら?」
「…さあ。今夜のお前次第なんじゃないか?」
そう言って口の端を上げた田口は、もしかしたら少し捨て鉢になっていたのかもしれない。しかし兵藤がそう気付いたのは随分後になってからのことで…この瞬間は、娼婦に誘われた童貞の少年のように、唾を飲み込んで掠れた声で
「…頑張ります」
と間抜けな返事をした。


「…っ…ぅんんッ、もう…それ、やだ」
内腿に田口の弱点を見付けて調子に乗った兵藤は執拗にそこを舌で攻めた。
「どうして嫌なんですか?気持ち良さそうなのに」
勃ち上がった性器に指先で触れる。
「ああッ」
切ない声に、益々調子付いて、性器に口付ける。
「ふあっ!っああッ…や」
男性器をくわえて興奮している自分はさぞかし変態的で滑稽だろうと思う。そんなことがどうでも良い程、溺れる。
「やじゃないでしょう
、嘘つきだなあ先輩…ここ、触ってもいいですか?」
後ろの孔に指を充てると、背を反らせて震えた。濡れた目で
「…やだ」
と言う。説得力の欠片も無い。
…初めてではない。
何となく、分かってしまった。
ひたすら愛しくて仕方がなかった心に、微かに黒いものが混じった。
…誰と?
「やだ?でも先輩は嘘つきだから…」
唾液で濡らした指を突き入れた。
「ひぁッ、あっ…やめろ、兵藤っやだ」
「どうして?痛くはないでしょう?こんなに柔らかく、俺の指をくわえてますよ」
わざと淫らな水音を立てて、意地の悪い言葉を吐く。
「や、だぁ…ッ」
「…どうして?」
繰り返される無意味な会話。兵藤は唇を歪めて
「分かりました」
と、指を抜いた。
「…?」
ベッドに落ちていたネクタイを拾い上げた兵藤に、田口の不安な目が向く。
「俺だから、嫌なんでしょう?」
「ひょう、どう…?」
「好きな男に抱かれてると思っていいですから」
青いネクタイで、目を覆った。

背中も、性感帯だった。
より奥にと求めて、獣の体位で挿入した。痛みと恥辱に耐える田口を美しいと感じた。根元まで繋がって、背中に唇を付けると仰け反って悶える。
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