東城大学病院

□君の好きなもの
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「そこまでは行きませんが…一ヶ月半分くらいでしょうか…」
と、魂まで抜けそうな深い溜め息をする。リアルな数字に、四人は一瞬息を飲む。
「…で、肝心の田口先生はどちらに?」
白鳥の質問に、マッサージチェアの上から微妙に振動した声で藤原看護師が
「今日は用事があるとかで、外来が済んだら片付けてすぐに帰りましたよ。誕生日だったんですねえ」
と呑気に答える。
帰っただとおぉ!?
内心の叫びを声には出さず、
「そ、そうですか」
等と口ごもる白鳥。
「何だ、誕生日に早退なんてアイツも抜け目無いなあ。一緒に過ごす相手でも……何だ、皆怖い顔して」
島津は突き刺さるような男達の目に戸惑う。
「一緒に過ごす相手…」
彼らは同時に一人の男を思い出し、歯軋りした。
「あの、アメリカ野郎…」
その思いを代表するかのように、速水が小言で罵った。


その頃。
空港を小走りする田口の姿。少しキョロキョロと人を探している風で、すれ違う人にぶつかっては慌てて謝っている。
その一部始終を眺めてい微笑んでいた男は、近づいた田口に軽く手を振ってみせる。それを見付けて田口は安堵と喜びを惜しみ無く顔に出して、男の元に駆け寄った。
「桐生先生、すみません、遅くなって」
「いえ、そんなに待っていませんよ。急がせてしまいましたね」
半端に久しぶりの再会というのは、なんだか気恥ずかしい。二人は目を合わせて、少し照れ笑いをした。

「本当に、こんな手近なところでいいんですか?」
空港に隣接したホテルの一室。桐生の問いかけに田口は上着をハンガーに掛けながら、笑顔で頷く。
「田口先生が良ければいいんですけど…私なりに考えたんですよ、温泉とか、有名な夜景の見えるレストランとか」
「それも楽しそうですけど…」
振り返って、至近距離でふわっと微笑んで、言った。
「桐生先生と、一番長く二人で居られる場所が、良いです」
「…今日は、随分と大胆ですね」
桐生は思わず田口を抱き締める。ニット越しに背を抱き、髪の香りをかぐだけで、胸が締め付けられるほど愛しさが込み上げる。
「会いたかった」
恥ずかしい台詞も、素直に言ってしまう。照れて小さな声で
「私も、…です」
と応える田口が益々愛しい。髪に、耳に、キスをする。くすぐったそうに少し震える肩に顔を埋めて肌の香りに酔う。
「…いい匂いです」
「まさか。病院と珈琲の匂いしかしませんよ」
「いえ、…それだけじゃない。優しい匂いです」
首筋に、唐突に舌を這わせると少し甘い声の混じった吐息が聞こえた。
片手をニットの裾から忍び込ませて背中の素肌に触れる。微かに震える髪を撫でて、項を少し強く吸った。
「…ぁっ…」
ぎゅっと抱き返してくる腕。どんな強力な媚薬でもこれ程強く心を掴むことは出来ないだろう。桐生は目の眩む陶酔に襲われながら、愛しい人の存在を五感で確認する作業に没頭した。

「…っりゅう、せんせっ…んゥ…!」
田口は何度も桐生の名を呼び、しがみついた。一つに繋がっても尚満足せず、二人の間に空気さえ存在することを許さないかのように、密に肌を重ね合う。
愛しくて、唇を奪った。キス、等と言う表現では生易しい。深く激しく、全てを奪うように強引で、なのに酔う程甘い口付け。
「んぅ…っ!…はあ、せんせ…っ…」
上と下を桐生に深く侵されて、田口は快感の波に意識を拐われそうになる。
桐生の長い指が、快感を示して硬く濡れている田口の中心を捉えた。
「ああっ!…ゃあ、ダメ、です…」
「何が、ダメなんですか」
田口は桐生の低い声に弱い。耳元で囁くとビクッと身体を震わせて、桐生の背にしがみつく指に力を込めた。
「…っぅ!…だって、そんな、されたら…もうイってしまいます…」
恥ずかしそうな顔が官能的だ。
「そんな可愛いことを言われたら、私が先にイってしまいそうですよ」
「せん…ッアア!やっ」
突然激しく揺さぶられ、田口は抑えきれなくなった声を淫らに上げて、桐生の手に蹂躙されるままに絶頂を迎えた。


明け方、二人は裸にガウンを纏っただけの姿で微睡んだ。
「まだ言ってませんでしたね。…お誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます。…祝う様な年齢でもありませんが」
「そんなこと言わないで下さいよ、私の方が歳上なんですから」
田口は少し笑って謝った。その笑顔につられて桐生も笑う。
ぼんやりとした明かりが窓から照らす。
「あの、渡しにくいんですけど…」
そう言って桐生は包みを取り出した。
「そんな、こうして来て下さるだけで充分なのに」
「いえ、私が差し上げたいんですよ。ただ…」
珍しく煮え切らない桐生の態度に、田口は心配そうに尋ねる。
「どうしました?」
「とりあえず、開けて見て頂けますか?」
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