東城大学病院

□ズルいひと。
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「…嫌われる覚悟でした」
そう言って深く呼吸すると、アルコールの匂いに隠されていた田口の肌の柔らかい微かな薫りを感じた。
「諦めるために、いっそ嫌われて蔑まれて、関係を断ち切ってしまうつもりでした。そんな自分勝手な理由で、貴方を傷付けようとしていた。…ズルいというなら、私の方が余程ズルい」
薫りが、体温が、存在感が心地好くて、桐生は独り言のように呟く。
「桐生先生の罪悪感を利用しようとした私の方が…なんて言い出したらきりがありませんね」
抱き合ったまま、二人はクスクスと笑い合った。お互いの息が耳を掠める。
「……あの、申し上げにくいんですけど…」そう言った田口の顔を、桐生が顔を上げて見た。
「……腿に、当たってるんですけど…その、先生の」
一瞬合わせた視線を、羞じらいながら伏せるその表情に、桐生は言葉を無くした。
「…す、すみません!」
今更といえば今更なのだが、謝りながらソファから降りようとする。その腕を掴まれて、驚いて田口を見る。
「…お互いズルいならいっそ、今は夢の中だということにしませんか?」
それは田口に出来うる最上級に大胆な誘惑だった。
それを無駄にする程桐生は野暮でも無欲でもない。
「…忘れられない夢になりそうです」
本当に夢の中のように柔らかい声で桐生は囁き、二人は求めるままに抱き締め合った。

「…っ、せんせ…」
裸の胸が、肩が、腰が。微かに紅潮した頬が、濡れた唇が、蕩けた目が。綺麗だと、桐生は思う。四十代の男に言う台詞ではないが、つい口に出てしまう。
「田口先生、綺麗です」
「…四十超えた男に、言う台詞じゃ…っあ!」心を読まれたかのような返答を、濡れた中心を強く握ることで中断させた。そのまま大きな手で扱くと、田口はきつく目と口を閉じて声を圧し殺し、桐生のシャツの胸にしがみつく。そこで初めて、自分は裸にされているのに相手は服を着ていることに気付いた。
「…桐生せん…せっ…ズルい、です…」
「何がですか?」
快楽に追い詰める手を止めて、田口の瞳を覗き込む。
「私だけ、服を…」
恥ずかしそうに言葉を濁す。桐生は再び四十代の男に使うには似合わない台詞を漏らした。
「可愛い…」
「っ!…先生、何言って…」
「すみません、つい本音が。気を悪くしないで下さい」
「…気にしてません。それより、あの…」
濁された言葉を汲み取って、桐生は言った。
「脱がせてくれますか?」
「はい?」
「私の服を。田口先生の手で、脱がせてみて下さい」
「…分かりました」
意外とすんなり承諾して、田口は桐生のシャツのボタンに手を掛けた。一つ一つ丁寧に外していく。間近に顔があるのに、目線が下を向いているから酷く無防備に見える。護るように優しく抱き締めたい衝動と、全てを奪うように乱暴に犯したい衝動とが交錯する。
「…ベルトもです。出来ませんか?」
上半身を脱がし終えた田口に容赦なく言う。田口は一瞬躊躇ったが、小さく息を吸って吐き、ベルトに指をかけた。
ベルトに続いてズボンの前を寛げると、桐生の昂りが直接的に感じられて、恥ずかしそうに目線を逸らし、手を離す。
それを許さないとばかりに桐生は細い手首を掴み、その手を再び自らの中心に触れさせた。
「分かりますか?どうしようもないくらい、興奮しています。貴方に」
抱き寄せ、耳元で囁いた。耳まで紅く染めた田口を心底愛しいと思い、抱き締めた。裸の胸と胸が密着する。肌が擦れ合う感覚は刺激が強すぎて、桐生はこれ以上興奮したら狂ってしまうのではないかと思う程血がたぎるのを感じる。
抱き締めたまま、首筋をきつく吸う。
「っあ!」
ぞくっと田口が身を震わせ、桐生の背に回した手に力を込める。
乱暴にしてしまいそうなのを何とか抑えながら、桐生は白い躰をソファに押し付けて、鎖骨に、胸に舌を這わせた。
「ンゥッ…ゃあ、せんせ…、ッアァ!」
小さく硬く色付いた乳首を熱い唇が含むと、一際高く声を上げた。唇で柔らかく挟んだり舌で転がしたりしてみると、細い躰をくねらせて田口が身悶える。
「んぅうっ、ああっ…!もうっ、せんせ…ゃあぁッ」
口では愛撫を続けながら、その表情を見上げる。白い喉を仰け反らせて喘ぐ顔を見ていると、それだけで絶頂に達してしまいそうになる。
「感じやすいんですね」
中心に触れてみる。先程手淫を施されたそれは、震える程快感を示して濡れていた。
「アァ!…言わないで…下さ…ッ」
もっと、もっと乱れて欲しい。桐生は田口の脚を持ち上げて強引に開かせ、その中心に顔を埋めた。
「なっ!いや!ッう…アァッ…せんせ、ダメ!いやですっ…ああんぅっ!」
蜜を滲ませていたソレをわざと音を立ててしゃぶり、先端を尖らせた舌で愛撫する。
田口の口からは言葉を成さない声が止めどなく上がり続けている。
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