御宝本閲覧室

□さぁ、戦いの始まりだ!
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はぁ、と息をついた吾代の目の前を、黒い車体が重低音を響かせながら通り過ぎていった。






『今度いつ暇?』


その二日後に届いたメールを無視してしまったのが、一ヶ月ほど前になる。
男の嫉妬は見苦しいと分かってはいるものの、ついついあの夜のことが思い浮かんで、返事を出しそびれてしまったのだ。
その間電話も、家に押し掛けることもせず(それまではなんだかんだで会いに行っていた)、吾代は意地でも沈黙を保っていた。笹塚の方からも連絡は無く、それが吾代の感情に拍車を掛けていた。


と、そんなある日。

吾代の携帯が、一通のメールを受信した。
差出人の欄には『笹塚衛士』。

本文を見るとそこには。




『今夜来い。さもなきゃ別れる。』







「遅かったな」
「バッ、テメーがあんなメール急に送ってくっからだろーが!無茶言いやがって!」

仕事を必死で片付け、笹塚のアパートに着いたのはもう月が空高く昇った頃だった。
まー入れ、と言われた吾代はぶつくさ言いながらも靴を脱いだ。

「…お前さ、」
「あ?」

「俺に、飽きた?」


ソファーに乱暴に腰掛けた吾代は、思わぬ言葉に呆然とした。

「…は?」
「や、だから、俺に飽きたのかって言ってんの」

ようやくその意味を理解した吾代は思わず立ち上がり、笹塚の襟首を掴んだ。

「テメー!俺を何だと思ってんだコラ!」
「いや、じゃあ、なんで避けんの」
「あ!?んなモンおめーに原因があるに決まってんだろーが!」
「は?俺?…俺が何かした?」

あーもう、と吾代はぐしゃりと髪をかきあげた。

「先月!テメーがドタキャンした日があっただろーが」
「…あぁ、うん」
「その日の夜、テメー男に車で送ってもらったろ」
「あぁ」
「ソイツが…あークソ、ソイツ、この家に入ったっきり三十分くらい出てこなかったじゃねーか」
「…それが?」
「だーかーら、そん時テメーはソイツと何やってたんだよ!」
「…は?」

笹塚はぽかんとして吾代の顔を見た。…心なしか、少しばかり赤くなっている。

「いや、何って…そん時ウチ散らかってたからさ、ゴミとか灰皿とか。アイツが掃除してくれてたんだけど。いいっつったのに」
「…そんだけか?」
「あぁ。俺ソファーで寝てたし。アイツ大学の後輩なんだよ」
「……」


沈黙が降りる。
が、その沈黙を破ったのも、笹塚の呆れたような声だった。

「え、じゃあ何、お前…それが原因?」
「…ケッ」
「お前、何勘違いしてんの…っつーか、何見てんの。三十分も」
「…あーそーですよ妬きましたよ嫉妬しましたよ!しゃーねーだろお前、あんなゴツい男!」
「まぁ、筑紫…うん。確かにデカイけどな」

目を合わせない吾代に、笹塚はハァ、と溜め息をつく。

「何お前、俺が悩んだのが馬鹿らしかったじゃねーか」
「悩んだってテメー…俺の悩みに比べりゃ小せぇモンだろ」

襟首から手を放した吾代は、笹塚をぐい、と腕の中に引き込んだ。
大きく息を吸い込むと、嗅ぎ慣れた煙草の匂いがする。

「…苦しーんだけど」
「うるせーよ。…俺ぁなぁ、テメーが浮気でもしてんじゃねーかとこの一ヶ月悶々としてたんだぞコラ」
「ンな面倒なことする訳ねーだろ」
「…だよな、テメーはそういう奴だよ」

笹塚の手がするり、と吾代の背に回された。

「…っつー訳でテメー、覚悟しとけよ。今夜は寝かせねーぞ」
「お前…どこで覚えたんだそんなセリフ」
「ハッ、何とでも言え。一ヶ月溜まった分、晴らさせてやるよ」

ニヤリと笑う吾代の首筋に、笹塚は、ふっと息を吹き掛けた。
「受けて立ってやるよ。…の前に飯。お前、食ってねーだろ」
「…テメー、逃げんなよ?食後の運動、楽しみにしてろよ」


どちらともなく、唇を会わせた。






それは彼らの、真剣勝負。
笑って二人は牙を剥く。
制するのは、果たしてどちら?





End.






リクエスト内容は、「吾代×笹塚で、吾代がヤキモチ妬くお話!」でした(*´∇`*)
柿野様、ありがとうございました!
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