御宝本閲覧室

□*Reflection*
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イエスというまで離さない、そう半ば脅すようにして田口を連れ込んだ海沿いのコンドミニアム。シーズンオフの6人用の部屋はむやみに広い。
加納が得意げに窓を指差す。
「いい眺めだろ」
「暗くて何も見えませんよ」
「こういうのはムードを味わうんだよ。心の目で見ろ」
「……」
田口は無視してベッドに潜り込む。
「白鳥の言うとおりだな」
「……今日は仮眠しかとってないんですよ」
「田口センセはつれない」
「……」
「あんたは、そいつの前でも冷たいのか?」
田口は毛布を顔まで引き上げると、背中を向けた。加納がそれを引き剥がす。
「……加納さん、いい加減に……!」
抗議の言葉は最後まで言わせなかった。
強引に唇を重ね、口内を蹂躙しつくして、田口の身体から力が抜けるのを待った。
「……ほらみろ。こういう夜はな、ひとりでいちゃいけないんだ」
田口の目尻からは、涙が落ちていた。
「……勝手なことを」
「……少なくとも、損はしないだろ」
加納は笑って田口の耳元に顔を埋めた。
「……なあ、俺が脱がしてもいいか?」
「……」
田口が困惑した顔で口を閉ざす。かまわず加納は田口の襟元を指先で探る。
「楽しいだろ。花びらが、一枚ずつ開いていくみたいで」
「……そんな」
趣味を自分に当てはめないで欲しい、言おうとして田口はあきらめた。拒否したところで、自分がどうしたいわけでもない。
「……私は鈍感ですから……楽しくなんかない」
ボタンを外すごとに、露わになっていく胸にくちづけが落ちる。
女とは確実に違う、キメの粗い肌。しかし陽の光にあたらないそれは整って白かった。引き込まれるように唇を走らせると、田口の両手がけだるそうに加納の肩を掴む。
やがて手のひらと唇の動きが一定の熱を超えたとき、田口の瞳が大きく揺れた。
「……っ」
知っている感覚に届いた。すがり付くように背中を抱き返されて加納は確信する。
男の愛し方はこの身体に深く刻まれている。
かろうじて痕が残らないほどの強さと、息をつく余裕を与えない緻密さ。思いを肌の奥まで届けようとするかのような深さ。
指が滑るごとに加納の肩を掴む指が爪を立て、固く閉じた瞼が震える。
こらえているのは、悦楽ではない。涙だ。
(……そんなに惚れてたのか)
切なくなって、首筋にそっと唇を這わせた。触れるか触れないかの、軽いくちづけ。
「!」
びくん、と田口の身体が跳ねた。
驚いて加納は半身を起こす。
「???」
大きく見開かれた田口の目が、あからさまに動揺を訴えている。
もう一度、今度は唇で鎖骨の上を微かになでた。
「……っ!」
思わず身体をよじって逃れようとする。加納はその腰を抱きなおした。
「っ……、加納さ……」
「……なんだ」
「……あの、……くすぐったいんで……やめてほし……っ!」
聞かずに加納が胸の突起に舌先を軽く落とす。
「……!!」
田口が泣きそうな顔で身を縮めた。
鈍感?なにを言ってるんだ、こいつは。
「そういうのは、くすぐったいって言わねえな。……イイって言ってみな」
田口の目に怯えが走る。うろたえて言葉が出せないでいるようだ。まさか、これまで知らなかったのか?
舌先をもう片方の胸に走らせる。ほとんど重さを与えずに先端をなでた。
「……っア!」
ぞくり、と加納の背筋に官能が走る。吐息と悲鳴の交じり合う、甘い喘ぎ。
さえぎろうとする両手を握り指を絡ませた。そのまま唇で胸をついばむと、熱を帯びた肌が強く波打ち、特有の柔らかな声が耳元を包んだ。
「……っ!……ア! こ……んな……っ、ん……っん…!」
田口が震えながら顔を背けて唇を噛む。その仕草が妙にあどけない。
この身体から快楽を引き出すには、その男の愛撫に込められた思いは深すぎた。
ほんのわずかな刺激で充分に反応する。そのことに、男は気付かなかったに違いない。いや、その男がここまでに仕上げたのだ。そうとは気付かないままに。
加納の目に、暗い光が宿る。
「……悪いな」
「……っ……?」
「……気が変わった。あんた、俺のものにならないか」
「な……にを」
「俺ならあんたを放っておいたりはしない」
「……!」
加納は田口のトラウザのファスナーを前歯で引き下ろすと、固くなったそれを布越しに貪った。
「……っ…!」
先端に向かってそっと唇をすべらせる。大きく腰を震わせて田口の喉がのけぞった。絡めた指先にしがみつくように力がこもる。ここまで熱くなっておきながらまだ声を噛む。初めてでもないだろうに。
そんな羞恥心など剥ぎ取ってやりたい。この腕の中で極限まで高まり、落ちてくる様が見たい。
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