節操無し書架

□匂いに関する考察。壱。
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「くせえくせえと思ったらやっぱり居やがったか、ノミ蟲」
「やあシズちゃん、相変わらず人間離れした嗅覚だね。ああ、当然か。人間じゃないんだから」

投げ飛ばされた自販機が臨也の足元の地面に投げ付けられた音を合図に、今日も名物の殺し合いが始まった。
と言っても臨也は逃げるばかり。
ヒラヒラと逃げる臨也を追って、静雄はビルや標識やガードレールにぶつかるが、全くのノーダメージ。
「大体さあ、いつもシズちゃん俺のこと臭いって言うけど、それって嗅覚に異常があると思うんだよね」
「ああ?知るか、くせえもんはくせえんだよ」
「シズちゃん以外の人に臭いなんて言われたことないし」
「思っても言わねえだけだろ、俺は正直なんだよ」
「ふうん…。そこまで言うなら、ちょっと確かめてみようかな」
「あ?」
少し離れたところから二人を眺めていたトムに、臨也は視線を向けた。
「ん?」
それに気付いてトムが首を傾げた。
素早くトムの前に駆け寄った臨也は、トムの指から吸い差しの煙草を取り上げた。
「てめえ、何…」
少し遅れて駆け寄った静雄の目の前で、臨也は片手をトムの首に回してその頭を自分の肩口に抱き寄せた。
硬直する静雄やギャラリーに構わず、臨也はトムの耳元に
「ねえ、俺、くさいかな?」
と訊く。
「…いや、臭くは、ないな…むしろ、いい匂いがする」
流石というか、一瞬戸惑ったものの直ぐに落ち着いた声でトムは答えた。
「そう、ありがとう」
「てっ…めえ!トムさんから離れやがれ!」
飛んで来た標識から、トムの腕を引きながら華麗に逃げる。
「じゃあね、トムさん」
いつもの小憎らしい笑みを見せて走り去る臨也の背中を、トムはずっと見送っていた。
「あのやろ…。すみませんトムさん、巻き込んじまって…」
「あいつ」
「え」
「折原臨也っていったっけ?」
「…はあ、そうすけど」
「…そっか」
「……トムさん?どうかしました?」
「ああ、何でもねえよ。面白いヤツだなと思って」
そう言って笑うトムの目線の先、臨也の去って行った方角に静雄も目を向けて…
「ちっ」
意味も分からず眉間の皺を深めた。
 

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