節操無し書架

□思春期。
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「普通の子ども達」は、義務教育のカリキュラムの中で性教育というものを受けるんだそうだ。僕は少し特殊な育ち方をしたから、皆が知っていることを知らない。だからかな。僕の性癖は少し歪んでいるのかも知れない。

本を読んでいる途中で眠りに落ちたのだろう。京介は座布団を枕に仰向けになって、いつもは長い前髪で隠している顔を無防備に晒して眠っていた。
美人は三日で飽きるなんて嘘だ。
僕はずっと近くで見続けてきたけど見飽きることなど一生無いと思う。七年…八年になるだろうか。僕より十も年上の京介は出会った時から変わることなく美しい。いや、前より綺麗になったようにすら思える。だって前は、綺麗だと思ってはいたけど、こんなに胸がドキドキしたり、身体が熱くなったりすることは無かった。

唇に、触れたい。
白い首筋に、口付けてみたい。
僕にだって分かる。
コレが「性欲」に分類される欲求であることは。

日頃の能面の様な無愛想な無表情の影もなく、微かに開いた唇で静かに呼吸する京介はあどけなくさえ見えた。

ほんの一瞬だけ。
その唇に触れることは許さないだろうか。

ゆっくりと、顔を近付ける。間近に迫る程に芳しい色香に囚われ、鼓動が速まる。

京介、お願いだから、あと五秒だけ、目を醒まさないでいて。

「…蒼?」
願い虚しく、京介は虚ろに目を開き僕を見た。
真水をかけられたように硬直した。
…気付かれてしまっただろうか、知られてはいけない気持を。

しかし京介はまだ意識の半分以上を眠りの世界に置いたままのようなトロンとした目のままで、ゆっくり僕の頭を抱き込んで、否応なしに抱き枕にされた僕の背をポンポンとやさしく叩いて
「おやすみ、蒼」
と言って…また寝息を立て始めた。

…京介ったら、夢の中でまで僕を子ども扱いしてるな。
少しむっとしたけど、間近にある寝顔を見てたら、さっきの熱い気持とは違う、なんだか温かいものが胸に染み渡って来て…京介のことを守りたいと、突然そんな風に思った。

「きょーすけ、おやすみ」

そして僕は、とても幸せな気持のまま、京介を追い掛けるように眠りの世界に落ちて行った。

end.

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