節操無し書架

□夏の終わり。
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「お邪魔しまーす」
玄関の鍵は開いていた。
チャイムを鳴らしても声を掛けても反応が無い。いつもはうるさいのが勢い良く飛んで来るのだが。留守だろうか。不用心な。
「…お邪魔します」
まあ、いいや。留守宅に上がり込むのは気が引けるが、開けっ放しで出掛ける方が悪い。堂々とお湯泥棒を決め込もう。
そんな気持ちで玄関を上がったから、居間で倒れている家主を発見した時は心底驚いた。
「小岩井さん!?」
駆けよって抱き起こし、軽く頬を叩いてみた。
「…ん…?ジャンボ?」
意識を取り戻した彼の顔を見て、安心した。と、同時に、胸の奥に小さな痛みを感じた。
「あ、ヤンダだ…」
「はい、ヤンダです。大丈夫ですか?小岩井さん」
「ちょっと眠気に負けて…。何、またカップ麺食いに来たの?」
「あ、はい。よつばが見当たらないけど…」「今日は、隣のご家族とプールに行ってる。俺は、仕事が溜まってて留守番」
ふあー、と大きな欠伸をして背伸びする。白いTシャツとトランクス。完全に寛ぎモード。一人で部屋に居る分には良いと思うが、俺が来た時点で少しは服着ようと思えよ。
「へえ、プール。…もう寒いんじゃないすか?」
「本人達が入りたいって言ってんだから。…あーヤバい、仕事進んでねえ…」
小岩井さんは眠たげな目でパソコンを見遣り、ため息を吐いた。
ノソノソと這うように机に戻ろうとする。
…無防備過ぎだろ。
その足首をいきなり掴むと、さすがにびっくりしたのか、目を丸くして振り向いた。
「何?」
「…無防備過ぎでしょ。そんなカッコで、玄関開けっ放しで寝てさ。変な人入って来たらどうすんの」
「は?」
「てかさあ、忘れてない?俺、あんたに告ったことありましたよね」
彼は言葉に詰まって目を伏せた。
「…何年前の話だよ。もう、忘れてた」
少し、イラッとした。だからという訳ではないが、肩に手をかけてフローリングに押し倒してやった。見上げる目に怯えが混じっているのを見て、悦に入る。
「俺は忘れてませんよ。小岩井さん、適当に誤魔化してうやむやにしたまま卒業していきなり外国行っちゃってさ。マジでショックでしたよ。しかも帰って来たって噂で聞いた時にはもう子連れだし。久しぶりに会いに来てもシレッとしちゃってさ。俺のことなんか本当にどうでもいいんだなあと思ってまたへこんで」
「別に、誤魔化したとかじゃねえよ、お前あの時酒入ってたし…」
少し迷って、俺は自分の緩くぶら下げていたネクタイを抜き取って、彼の両手首を縛った。
「止めろ!ヤンダ、いい加減に…」
「止めない」
いいところに机の脚があったので、ネクタイをそこに結ぶ。動きが封じられた小岩井さんは完全に怯えていて、その目に俺はぞくぞくする程の愉悦を得る。
白いTシャツをたくし上げて胸まで肌を露出させる。半袖でよく外に出ている割に腕もあまり焼けていないが、初めて見た胸や腹は真っ白と言って良い程白く滑らかで、俺の妄想の裸と寸分違わなかった。
素肌に指を乗せると、息を詰めた気配がして、見ると、固く目を閉じて顔を紅潮させて耐えている。抵抗は諦めたのだろうか。胸を撫でる指で薄く色付く乳首を掠めた。ビクッと身体を固くしたその反応に、酷く煽られた。
「乳首、感じるんです?」
逸らした顔が更に紅潮するのを見て、俺は唇の端をつり上げた。きっと今、サディスティックな顔をしている。
黙秘を決め込む小岩井さんの乳首に舌を這わせた。さっきよりも大きく反応する身体。ジュルッとわざと下品な音を立てて吸う。
「ひあ…ッ」
聞いたことの無い、甘く切ない声。ヤバい。頭がおかしくなりそうな程に欲情する。
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