京極・巷説の部屋

□拍手文〈ハロウィン編〉
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「tric or treat?」
黒いマントを纏って登場した榎木津は、純和風の中禅寺家の居間にとてつもなく不似合いだった。
「また、西洋の奇妙な風習ですか?」
「そうだ!もてなしをしなければ悪戯をするという恐ろしいオバケだぞ」
「…お茶を淹れますから、少し待ちなさい」
「ダメだ!そんなもてなしではつまらん。それなら悪戯をする方が良い」
「何を訳の分からないことを…」
「お茶はいいから、ここに座れ。お前は本を読んでいていいから」
怪訝そうに眉根を寄せながらも、中禅寺はそれに従った。

買物から帰って来た千鶴子が居間を覗き、
「あらあら」
と笑みを漏らした。
「重くて敵わないよ。石榴の方がまだマシだ」
名を呼ばれた家猫は中禅寺の背中を温めるように寄り添って丸くなっている。特等席を取られたのは悔しいが榎木津に喧嘩を挑むのは無謀だと心得ているのだ。
「子供のような寝顔ですね」
「起きていても寝ていても迷惑な男だ」
そう言いながらも膝枕を貸している主人に、千鶴子は少し苦笑した。

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