東城大学病院

□拍手その六
1ページ/1ページ

愚痴外来にノックの音が響き、田口が応えるより早く扉を開いて小さな二つの影が飛び込んで来た。
「tric or treat?」
大きなジャック・ランタンを被ったアツシと、ドラキュラのようなマントと帽子を付けたヒデマサが、手の平を差し出していた。
お菓子を貰う気満々なその様子に田口は苦笑し、
「treatで」
と答えて藤原看護師が買い置きしてあったお菓子から適当に見繕って渡した。
「やったー!」
「わーい!」
素直に喜びを表現して口々に礼を述べた小さなオバケ達に田口は口元を綻ばせ、
「他の先生のところにも行ったのかい?」
と聞いてみた。
「行って来たであります!」
「でもさ、皆treatばっかりなんだ」
「いいじゃないか、お菓子沢山貰えて」
「少しは悪戯だってしたいよな」
「折角作戦を立てたのに」
「へえ、どんな?」
何気なく言った次の瞬間、顔を見合わせてニヤリと笑った二人を見て、田口は後悔した。

愚痴外来のドアの前に立った兵藤は中から漏れ聞こえる声に耳を疑った。
「ちょっ、もう、やめなさい…っ」
…田口先輩?
「二人とも、もうっ、いい加減に…ひゃあッ」
…二人!?何それ、どういう状況!?
躇いの末に思い切ってドアを開けると…
「こちょこちょ攻撃フォーメーションC!」
「ラジャーであります!こちょこちょ〜」
「うわっ、こら、擽ったい…ギブ!ギブ!」
小さな二人のオバケに両脇から擽られて身をよじる田口。
オバケ達は兵藤に気付くと
「撤収!」
「ラジャーであります!」
と叫んで兵藤の脇をすり抜け、走り去った。
「…助かったよ」
「ハロウィン、ですか」
笑いすぎのせいか涙目で、乱れた着衣を直す田口を見て、兵藤は生唾を飲んだ。
「先輩、お菓子はいいので悪戯させて下さい!」
田口の冷たい拒絶が目に見えているのに言わずに居られない、男の性であった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ