東城大学病院

□夏祭り。
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夏祭りに行きましょう、と兵藤が言い出した。

**夏祭り**

「…何で…浴衣じゃ…ないんですか…!!?」
「…は?」
電撃に打たれた様な派手なショックを表現する兵藤は、よく見ると甚平姿だ。
「夏祭りって言ったら、浴衣姿が眩しすぎて胸が騒いで、綿菓子買ってご機嫌だけど友達見付けて離れて歩いて…」
「…何を言ってるんだお前は?」
「あ、いた。おーい行灯」
「のあああ!?速水先生!?島津先生も!?」
奇声を上げる兵藤に、さすがに少し申し訳無さそうに
「さっき電話があって、暇なら来いって言われて、祭りに行くって話しちゃったんだ」
と言った。
「ごめん」
と言われると責める気には成れない。
「お、金魚すくいがあるぞ。久しぶりにやるか、行灯」
「いや、俺はいいよ」
「行灯、昔一匹も掬えないまま紙が全部破れてたよな」
「そうそう、射的も全く当たらなくて」
「林檎飴で口真っ赤にして」
口々に田口をからかう速水と島津に、兵藤はジェラシーを禁じ得ない。
「…どうでもいいことばかり覚えてるな」
少し恥ずかしそうに呟く田口が可愛いくて、それに絡む二人に益々妬けてくる。
「先輩!何が食べたいですか!?」
「先輩!何が食べたいですか!?」
少し強引に話を切り上げて、田口の手を引いて賑わいの中に入って行った。


「型抜きって昔あったな。やったことあるか?」
「ありますあります!懐かしいですね〜。今の子供は知らないんでしょうね」
「同世代でも、地方によっては知らないしな」
他愛の無い会話をしながら流す屋台。
兵藤の頬は緩みっぱなしだ。
…デートだ!
楽しそうに周囲を眺める田口の横顔が眩しくて、誘って良かったなあと心から思う。
手を繋ぎたいな、さすがにダメか。
そんなことを考えていたら、田口の携帯が無愛想な電子音で鳴いた。
「………」
相手の名前を確認した田口が少し困ったような顔で兵藤を見た。
……ああ、あの人か。何てタイミングで。
兵藤は笑顔を作って、「どうぞ、出て下さい」と早口に言った。上手く言えただろうか。
近くで聞いていたら話しにくいだろうから、軽く手を振って、兵藤は田口から離れた。



神社の石段に腰掛けて、兵藤は一人夜空を見上げた。
もうすぐ、花火が打ち上がる時刻だ。
気を紛らわそうと、目に付いた屋台で矢鱈と物を買ってしまったので、荷物がいっぱいだ。脇に置いたそれらを見詰めて、溜め息を吐いた。
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