東城大学病院

□拍手文その二
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『今年は逆チョコってヤツが流行ってるから、俺がチョコ売場に並んでも変な目で見られませんでした』
今朝、兵藤が少し照れながら、綺麗な箱を差し出した。
今日は、バレンタイン。土曜日で休診なので、愚痴外来の患者さん達と藤原さんから昨日までにいくつかチョコ等貰っていたため、バレンタインというイベントの存在には気付いていた。
『女が男に、ってのに限らず、好きな人にチョコをあげるイベントになってるみたいですね。企業に踊らされてるんだろうけど、俺はこういうイベント嫌いじゃないから』
言い訳の様に付け加えていた。
『ありがとう』
素直に礼を言うと、兵藤は益々照れて目を伏せた。それから、小さな声で
『先輩は、あげないんですか?…好きな人に、チョコレート』
自分で言っておいて、とても痛そうに。
こんな時、何と答えたらいいんだろう。
俺は伝わって来る痛みを出来る限り冷たく黙殺する。
『そうだな、あげようかな』
そしてまるで何も感じていないかのように残酷に、笑顔のまま言う。
『…なら早く買わなきゃ、もう無くなっちゃいますよ』
兵藤も笑顔を作って、そう言った。

今朝のことを思い出しながら口にしたチョコレートは、甘くて苦くて、ほんの少し、泣きそうになった。

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