東城大学病院

□君の好きなもの
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※ご迷惑でなければ、かまんさんに捧げます…(*^^*)時期とか、何故こいつらタメ口なんだとか、何故こいつ桜宮にいるんだとかは気にしないで(笑)


「何故あんたがこんなところに…」
「そんなこと、どうでもいいじゃないですか。あなたこそ、お忙しいんじゃないですか」
冷え込んで来た夕方の廊下、熱い口論を交わしている白鳥と速水の声。
「…おう、随分仲良しになったみたいだな」
「加納!?お前まで…しかも何だ!?その花束は!」
「これか?似合いそうだろ」
「「…誰に」」
加納はにやりと口の端を吊り上げて
「愚問だな」
と一笑に附した。
「って、よく見たらえらく地味な花束じゃねえか」
淡い色の薔薇を大量の霞草が囲った花束を速水が揶揄する。
「だから、似合うと言ってるんだよ」
「「…確かに」」
「勿論、コレだけじゃねえぞ。最高の夜景を用意してある」
ベンツの鍵を長い指で弄びながら、勝ち誇った様に言う。
「くっ…!」
悔しそうな白鳥と対照的に、速水は鼻で笑い飛ばした。
「分かってねえな、お巡りさん。あの行灯クンが花束や夜景を本気で喜ぶと思ってんのか」
「何だと!?」
「俺はあんた方とは年季が違うんだよ」
「じゃあ、あんたは何を…!?」
ふっと笑って速水が白鳥の鼻先に突き付けたものは…
「…〇〇温泉二名様宿泊券」
有名な高級温泉旅館の名前に、一瞬白鳥がたじろぐ。
「…なるほど、確かに温泉は好きそうだ」
「しかし、この二名様ってのはどういうつもりだ?」
「決まってんだろ。…何とか、休暇調整しなくきゃなあ…」
「何!?」
「そ、そんなことが…」
益々白熱する三人に、場違いな間延びした声が
「お、どうしたんだ賑やかだなあ」
と呼び掛けた。
「島津」
「何だ何だ、お揃いで。ははあ、さてはお前らも行灯の誕生日祝いに来たんだな」
このおおらかな男は、今まで誰も口にしなかった直接的キーワードをばっさり言ってしまった。
「…も、ってことは、お前もか?」
「そうなんだよ。いやあ昨日ふと思い出してな。学生時代はそれを肴に飲み明かしたもんだったなあ。なぁ、速水」
「あ、ああ…。ところで、お前は何を?」
「ん?プレゼントか?…聞きたいか?」
不敵に笑って、包みを翳す。
「我ながらいいところに目を付けたと思うぜ」
「勿体振ってないで言えよ」
「何だ、そんなに焦って…。手品セットだよ」
「「「手品?」」」
「ああ。最近愚痴外来も子供を扱うようになったみたいで苦労してたからな。俺もちょっと試してみたが、子供にバカウケだ。使えると思うぜ」
成る程、と三人は思わず納得する。
「い、いや、使えるという点では僕のプレゼントの右に出るものはありませんよ!」
ここに来て白鳥が反抗する。
「お、何だ?」
「田口先生の好きな物と言えば…」
考え込む面々を嘲り笑うように、大きな包みを見せ付けた。
「珈琲です!!」
おぉ、と感嘆の声が聞こえ、白鳥はいい気になる。
「この最新の珈琲メーカー、豆の美味しさを最大限まで活かしてマニアも納得の味を出してくれる優れ物。きっと田口先生のパートナーとなることでしょう!」
むむ、と三人が唸る。
「どうかな、好きなものこそ、他人のセレクトは逆に迷惑かも…」
「大人の配慮として、形の残らない物ってのが押し付けがましくなくていいだろ。今夜限りの思い出とか」
「行灯があんたとの思い出なんか欲しがるかよ。同じ思い出なら疲れも取れる温泉だろ」
「手品、いいと思うんだがなあ」
収集の着かない事態になり、四人はともかく愚痴外来に押し掛けることにした。


「どうですか?具合は」
中から漏れ聞こえる声に、四人は立ち止まる。ドア越しに聞き耳を立てる。
「悩んだんですよ。先輩、こういうの使ったことないって言ってたし」
速水が眉間に皺を寄せる。
「兵藤か」
「廊下トンビくんに先を越されましたか」
「お前等のせいで出遅れちまった」
「何だと!?」
「しっ!」
小言で言い争った末に四人は再び仲良くドアに耳を貼り付ける。
「…七種類のパターンで振動するんです」
…振動?
「専門店で買ったんですけど…やっぱり恥ずかしかったですよ」
恥ずかしいもの?
「どうでしょう、…気持ちイイですか?」
気持ちイイ!?
………ぷち。
「くおりゃあああ!兵藤てめええぇ!!」
妄想が飽和状態を越えて、速水が勢い良くドアを開けた。

「あら、どうしました、皆さんお揃いで」
「………藤原さん?」
おでこに青筋を浮かべた四人が目の当たりにしたものは…新品のマッサージチェアに身を任せて寛いでいる藤原看護師と、傍らで肩を落としている兵藤。
「…兵藤、まさかそれ…」
「誕生日プレゼントです。田口先輩に…」
「奮発したなあ。給料の3ヶ月分か?」
加納の揶揄にも怒ることなく
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