東城大学病院

□車の中で隠れてキスを。
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どうしてこんなことになっているんだろう。

夕闇に紛れて停められたベンツ。
肌触りの良い、助手席のシート。
押さえつけられた体に感じる重味。
眼前に迫る、凄みのある美形。

濡れた音を交えながら、深い口付けが繰り返される。
「…ふ…ん、か…のうさ…」
頭の芯が痺れるような、甘くて息苦しい陶酔。唇が離れ、目線を上げる。目が合った、その瞳は欲の色を滲ませていて…田口は目を伏せた。
首筋に、熱い唇の感触。
「ぁっ…」
反射的に逃げようとする体を、再びシートに押さえつけられる。
「逃げるな」
耳元で、低い声が命じる。ぞくっと背中を走った感覚は、怯えか愉悦か。
耳を舐められて、上がりそうになる声を抑える。
「声、出せよ」
見透かしたような命令口調。唇を噛んで耐えると、関節の目立つ長い指が歯を抉じ開けて侵入した。
「ふあ…っあ、いや…」
そのまま耳と首筋を噛み付くように愛撫されて、閉じる事を禁じられた唇から絶え間無い喘ぎ声が上がる。

媚薬のように耳をくすぐる声に酔いしれながら、加納は田口のベルトに手を掛けた。
脅えたようにすくむ身体。
「…怖いのか?先生」
「そんなこと…っ」
シャツの上から胸を撫で回す手が、尖った突起に触れた。大きく震えた身体が、ここが弱点だと知らせる。加納はシャツ越しにそこに口付け、軽く歯を立てた。
「アァっ、いや、加納さん…」
「嫌か?何故だ?」
「何故って…、そんなっ、んああっ…」
「操を立ててる相手でもいるのか?」
田口の身体が硬く止まった。
顔を上げて見ると、少し悲しい顔で虚を見ていた。
「…先生?どうかしたのか?」
「…いません。」
「え?」
「そんな相手は、いません」
目が合った。その寂しい瞳に引き込まれた。田口が、加納の頭を胸に抱く。更なる愛撫をねだるような淫靡な仕草に加納の雄が熱くなる。
乱暴にシャツをはだけさせ、素肌を貪るように顔を埋める。
「っう…ふぁ、んぅっあっ…」
頭を抱く手が、整っていた髪を乱す。それすら加納の欲情を煽る。「悪いが、やさしく出来そうにねえぞ」
「…加納さんにそんなもの、求めませんよ」
「言うじゃねえか」
布越しに田口の勃ち上がった中心に触れる。
「っあ!」
「あんたが誘ったんだからな、…覚悟しろよ」
濡れた瞳が頷く。それを見て加納の喉が微かに鳴った。

どうしてこんなことになったのだろう。
溺れそうな危険な予感に焦りながら、加納は、頼りない程に白く細い肢体をきつく抱いた。
月さえ見ていない、闇夜の秘め事。

end.

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