復活書架

□FirstKiss
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「なあヒバリ、俺の誕生日、知ってる?」

葉桜の鮮やかな暖かい日、山本が言った。

「来週だね」
「知ってんのかー!すげー嬉しい!」
「まだお祝いするなんて言ってない」
「覚えてくれてるだけで嬉しいのな」

雲雀と山本が恋人ごっこを始めてから、つまり、雲雀とディーノが別れてディーノが結婚してから一年と少しの時間が過ぎた。
二人の関係は、あまり変わっていない。山本が大学に進んで並盛を離れて一人暮らしを始め、雲雀はヨーロッパひ中心に世界中を飛び回る生活をしているので、なかなか会えない。

「なにか、欲しい物ある?」
「えっ!ヒバリが何かくれるの?」
「さあね。言うだけ言ってみなよ」

山本に他に好きな人でも出来たらいつでも解約する取り決めの、ダミーカップル契約。

雲雀の中では既に偽恋人としての山本は役割を果たしており、続ける必要はないのだが、言い出した手前山本の方から離れて行くまで付き合ってやろうと思っていた。

「欲しいもんって言うか、…お願いがあるんだ」
少しだけ改まった言い方に、雲雀はこの関係の終わりを予想した。
「何?」
山本は言葉を探すように深く息を吸う。
ああ、終わりか。心を満たすのはたぶん、喪失感と、安堵。

山本は高校から大学にかけての間に野球でその名を馳せ、容姿と性格も相まって大変な人気者になった。中学時代から女子に人気だったが、今や桁が違うモテ方をしている。そんな彼が、離れて暮らすダミーカップルの男などにいつまでも心を置いておく筈がない。

「恋人のフリ、そろそろ終わりにしたいんだ」

分かっていた筈なのに、言葉にされると予想外に痛みを感じた。
何故、痛みなど。

「そう」
「フリじゃなくて、本物の恋人になって。ヒバリ」
「……え」

不覚にも驚いてぽかんと見上げた顔を、山本は照れ笑いで見詰めて、
「俺、どんどんヒバリのこと好きになっちまってて、やべーんだ。フリとか、寂しいから、本当に恋人になりたい」
「君、……どうして」
「ん?」
どうして。その先に続く問いを雲雀は紡げずに山本の顔を見続けた。

どうして、そんなに僕に執着するの?
どうして、そんなに優しく接するの?
どうして、僕は、君が離れていかないことに安堵しているの?

「…本物の恋人って、何?」
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