復活書架

□ウェディング・ベル。
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大型リゾートホテルを丸々借りきっての盛大な結婚式の朝、主役の一人である新郎は最上階の豪奢なベッドに腰掛けて、思考の渦に呑まれていた。

これで、良かったのだろうか。

それは何度もロマーリオ達に漏らした言葉だ。

‘キャバッローネのボスが一度決めたことをうじうじ悩まないでくれよ’
‘キョーヤのことなら忘れろよ、それがアイツの為だ’
‘未来あるキョーヤを、マフィアの男妾にするより、すっぱり切って自由にしてやれよ’

反論は出来ない。いつかこんな別れが来ることは、どこかで予感していた気がする。
しかし、それでもまだ心は前に進めない。

本当に、これで良かったんだろうか…。



「うわあ、やっぱり凄いなあ」
豪華なホテルと、そこに集う人々に、ツナは素直に感嘆した。
「十代目、はぐれないように手を繋いでおきましょう!」
「え、いや、いいよ、恥ずかしいよ。それより、これじゃあディーノさんと直接話したりするのは無理かなあ」
「そっすね…跳ね馬の野郎、何考えてんだか」
獄寺は小さく呟いて、後方に居る雲雀を盗み見た。不機嫌そうな顔はいつもと変わらず、実際何を考えているのか表情から察することは困難だ。
「ヒバリさん、大丈夫ですか?人混み、嫌いでしょう?」
ツナもやはり気になっていたようで、然り気無く声を掛けた。
「…大丈夫じゃないよ。群れすぎ。気持悪い…。祝いの品渡したらすぐ帰るから」
どす黒い不機嫌オーラにツナが怯えていると、全くそんなことは意に介さない様子で山本が
「うんうん、もうちょっとのガマンだからなー、頑張ろうな、ヒバリー」
と能天気な声で言いながら雲雀の頭を撫でた。
ツナと獄寺がトンファーの炸裂を予想して身を強ばらせたのも束の間。雲雀は頭に乗せられた手を軽く払っただけで山本に制裁を加えることはなかった。
「……ヒバリさん?」
「…逆にこえーんだけど」
二人は口々に呟いて、目を見合わせた。
「あの…」
ツナは思い切ってヒバリに話し掛けた。
「ヒバリさんと山本が付き合い始めたって、本当なんですか?」
相当に勇気を奮っての質問だったのだろう。常日頃から小動物のように怯えていた四年前のツナとは違い、ボスの風格の片鱗を窺わせることすらあるようになってきた最近の沢田綱吉だが、ヒバリに対する畏怖は相当深いところまで刷り込まれているようだ。
「ワオ、知ってたの?」
「あ、俺が言ったんだ。ダメだった?」
「いや、構わないよ」
「え、じゃあ、本当なんですか」
ツナが上目遣いに見ながら訊くと、雲雀は口角を少し上げて、
「本当だよ」
と答えた。
ツナと獄寺は言葉を失って顔を見合わせる。
その時。

「ようツナ!来てくれたんだな!」

ディーノの明るい声が、ツナ達を更に凍り付かせた。
「ディーノさん…」
「守護者もお揃いで…ってわけにゃいかねーか、やっぱり。曲者ばっかりだもんなあ」
「あ、はい、お兄さんは試合と重なって、ランボは自分とこのボスのお供で、クロームは連絡取れないです」
「だよなあ。まあ、恭弥が一緒に居るってだけで天変地異もんか」
ディーノが雲雀に笑顔を向ける。ツナ達は凍り付いたまま見守った。
「人が群れる場所には来たくなかったけど、祝いくらいしなきゃ礼儀を欠くと思ってね。貴方は僕の師匠ってことにもなってるらしいから」
「師匠、ね。…お前が元気そうで安心したぜ」
「貴方も。はい、コレお祝い。じゃあ、僕は帰るから」
「相変わらずだな」
苦笑するディーノに背を向け、雲雀は去ろうとして、足を止めた。
「そうそう。…僕、山本武と付き合い始めたんだ。一応報告しておくよ」
何でもないことの様に告げて、再び背を向ける。
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