魔人探偵

□旧拍手E
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『trick or treat?』
本文にそれだけ書かれたメールの差出人は、匪口。警視庁の玄関先でそれを確認した笹塚が携帯の液晶から視線を上げると、そこに差出人が立っていた。

「お菓子とか、持ってないんだけど」
「じゃあ悪戯で」
「どんな?」
「そりゃ勿論エロいことでしょ」
「馬鹿か」
車中での他愛無い会話。
「夕飯おごってやるからそれで退散しろよ」
「悪戯の方がいいな。だって俺笹塚さんより給料多いし」
「可愛いくねーな」
信号で停車し、無造作に煙草に火を付けた。
「じゃあさ」
煙草を指から抜き取り、それを咎めるように助手席を向いた笹塚の頭を引き寄せて、唇を重ねた。
「ごちそうさま」
「………馬鹿か」
「うん、馬鹿かも」
無邪気な笑顔で煙草を笹塚の唇を戻して、
「これってtreat?trick?」
と訊く。
「…知るか」
「ま、どっちでもいーけど」
飽くまで無邪気な匪口に笹塚はため息を吐いた。最近の若い者は何考えてんのかわかんねーな、と内心で呟く。
「あ、飯も付き合ってよ。おごるから」
生意気なことを言う未成年に一瞥をくれて、無言でステアリングを操る。
「…笹塚さん、怒った?」
急に不安そうに伺ってくる声に、笹塚は苦笑混じりに
「割勘だ」
と答えてやった。
尻尾があったらブンブン振っているであろう匪口の嬉しそうな顔に、ああまた甘やかしてしまったと後悔するのだった。

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