魔人探偵

□小さな生き物。
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「…おい、笹塚。ポケットから覗いてるソレは何だ?」
厳しい風を装おっているが、トキメキを隠しきれていない声で笛吹が問い掛けた。
「…ああ。まだ居たんだ」
笹塚はソレを見下ろして呟いた。
「さっき、弥子ちゃんと会ったから一緒に昼飯食ったんだけど…パスタに入ってた」
「ネズミが!?」
「うん」
小さなネズミは、自分に話題が向いているのが分かるのか、コソコソと笹塚のポケットに隠れた。
「チーズ食わしたら何かなつかれちゃって」
「それで連れて来たのか?」
「レストランに置いといたら駆除されるだろうし」
もぞもぞと動くスーツのポケットに軽く触れながら、笹塚が呟く。
「石垣にでも飼わせるかな…」
それを聞いて、笛吹の眉尻がピクリと上がった。
「いかん!あんな、ゴキ〇リホイホイを仕掛けてある部屋にハムスターを放し飼いするようないい加減な人間に、パッタンを任せることは許さん!」
この短時間で名前考えたのか、とか、パスタから見つかったからパッタン?とか、なんで石垣が笹塚に送ったメールの情報を知っている、とか、突っ込みたい諸々の事柄を敢えて無視して、笹塚はネズミを手のひらに乗せ、笛吹に差し出した。
「じゃあ、お前に」
手の上のネズミは少し怯えている風で、縮こまっている。
「…し、仕方無いな。私が面倒を見てやろう!」
笛吹の手に移ったネズミがチラチラと笹塚を気にしているようだったが、
「じゃあ、よろしく」
と一言、笛吹の隣をすり抜けて行こうとした。
「待て!笹塚!」
突然大声で呼び止められて、足を止める。
「貴様…」
笛吹が睨み付けている。身に覚えが…無いとは言い切れないが、差し当たり今は思い付かない。
「何?」
「貴様、ストラップに目玉の親父を使っているのか!」
見ると、尻のポケットからぶら下がるように、イビル・フライデーがくっついていた。
(…ネウロか)
確かに、ぱっと見には、ポケットに入れた携帯に付いているストラップに見えるだろう。
笹塚は然り気無く其れを手に包み、上着のポケットに隠した。
「私は、『キモカワ』ジャンルは認めないぞ!」
眼鏡を光らせながらよく分からないことを息巻く笛吹に返す言葉が思い浮かばず、
「…大声出すと、パッタンが怯えるよ」
と言ってやった。
慌ててネズミに話し掛けている笛吹を残して、笹塚はその場を後にした。
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