魔人探偵

□白昼夢。
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珈琲の香りで目が醒めて、笛吹は初めて自分がうたた寝していたことに気付いた。
「おつかれさん」
デスクに珈琲を置いた笹塚が見下ろしていた。紙コップから湯気が立ち上る。
「根詰めすぎだ。少し休め」
「誰のせいだと思っている」
睨み付けながら、珈琲に手を伸ばす。
「…あ!ブラックじゃないか!私が飲めないのを知ってて…!」
「あれ、そうだっけ?」
「この前も言ったばかりじゃないか!貴様というヤツは、事件に関係ないことは覚えようともしない。そんなことでは組織の中で…」
「悪かったよ。珈琲、淹れ直そうか?」
紙コップを持ち上げて、笹塚が訊く。
「…要らん。それは貴様が飲め」
「あー…悪い、俺飲めねーんだわ。死んだから」
「……そうだったな」
消えた。


「…筑紫、私は今眠っていたか」
「…はい、五秒程」
デスクには、今筑紫が置いたらしい珈琲が湯気を立てていた。
一口含む。珈琲というよりカフェオレと呼ぶべき甘い飲み物。笛吹の好みを熟知した、筑紫ならではの心遣いだ。
「笹塚は」
呟きは独り言か語りかけか。続く言葉を無言で待つ筑紫に
「何でもない」
と首を振った。

end.

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