魔人探偵

□一回り。
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「一回りって、どういう意味?」
「…は?」
唐突な、匪口の質問。笹塚は意図を汲めず戸惑った。
「筑紫さんに言われたんだよ、『上司を、それも一回りも上の人間を、からかうものではありません』て」
「…また笛吹で遊んでたのか」
「すげ、何で分かったの?俺筑紫さんの名前しか言ってないのに」
「…一回りってのは12歳違いってこと。干支が一周するだろ」
へー、と感心する匪口に
「頭良いクセに変な所で常識ないよな、お前」
と、笹塚は呆れる。
「え、じゃあ12コも違うの?俺と笛吹さん。笹塚さんて笛吹さんと同期っつってたよね、じゃあ笹塚さんも一回り上ってこと?うわ、何かショック」
「…いや、ショック受けんのはこっちだろ」
「俺だってショックだよ。だって、俺生まれた時笹塚さん12歳だよ?俺の小学校入学と笹塚さんの大学入学が同時だよ?うわあ…」
答えるのも面倒になって、笹塚は煙草に火を点けた。
「笹塚さんが俺の歳の時、俺七歳かあ…。19歳の笹塚さんて想像つかねー。どんなんだったの?少しはテンション高かった?」
「…あー、今よりはな…」
紫煙の中に、幻覚が浮かんだ。あの頃には在って、今は亡い者達が笑っている。
父が、母が、妹が。
「憎悪」を辞書の上でしか知らなかった自分が。
ゆっくり瞬きをして目を開けた時には、それらはもう消えていた。
「笹塚さん?」
「何?」
「31歳の俺、想像つく?」
「いや」
「ちょっとは考えて答えろよ!…ちなみにその時笹塚さんは43歳です」
「ああ」
「43になっても、カッコイイんだろうなあ」
その発言が少し意外で、顔を上げた。
「あ、やった」
「え?」
素早く近付いた顔。唇に一瞬、掠めるような軽いキスの感触。
「今日初めて俺を見てくれたね、笹塚さん」
悪戯っ子のように笑う顔。
「…クソガキ」
「ひでー」
笹塚が微かに動揺を見せたことが余程嬉しいのか、匪口はニヤニヤと笑い続けた。


end.

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