魔人探偵

□墓前にて。
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突発的に、吾笹SS。社長に墓があるとは思えませんが、その辺はスルーで。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

くわえ煙草で墓を見下ろすその男の佇まいは、「墓参り」という言葉には到底似合わなかった。
「…何で、テメーがここにいんだよ」
勘の鋭いこの刑事には珍しく、声をかけるまで吾代の存在に気付かなかったようだ。
「…見て分かんない?墓参り」
「そうじゃなくて、何でテメーが社長の…」
言い掛けて、気付く。笹塚には裏社会に身を沈めていた過去があるらしい。ならば早乙女と繋がりがあってもおかしくない。
「…知り合いだったのか」
「…まあね」
いつもは顔を合わせればいがみ合う相手だが、何だか今日は勝手が違う。吾代は戸惑いながらも、笹塚の隣に立ち、早乙女の墓碑に向き合った。
持参したビールを開けて、墓碑に注ぐ。
「…後で酷い匂いになりそうだな」
「水で流しときゃ大丈夫だろ」
吾代の足元のビニール袋にペットボトルの水を確認して、笹塚は
「意外と几帳面なんだな」
と呟いた。
吾代が一通りやるべき事を済ます間も、笹塚は殆ど微動だにせず、そこに立っていた。
「おまわり、まだここにいんのか?」
「…偶然会った時に」
「ああ?」
「でっかいガキ拾ったって、言っててさ。何か楽しそうに」
「…………」
「アイツ、あんたの事かなり気に入ってたよ」
「…………」
吾代は墓碑を見詰めて立ち尽くす。それはただの灰色の四角い石であって、早乙女ではない。けれど。
「…訊いていい?」
「…なんだよ」
「死体、見たの?」
「…………見たよ」
「そう」
笹塚が新しい煙草に火を点けて深く吸い込み、煙を吐く。その様子を吾代は視界の隅で捉えていた。
「じゃあ、本当に死んだんだな」
煙に混じって、吐き出された呟き。吾代はその横顔から目が離せなかった。


「俺、もう帰るけど、あんたまだ居るの?」
「…ああ、そーだな…いや、」
「まあ、一緒に居るとこ人に見られたい相手じゃねーし、お互い」
一瞬、一緒に帰ろうかと思った矢先の笹塚のその言葉に、吾代の心がチリッと焦げた。
「そーだな。見られる見られねー以前に、コレ以上テメーと顔合わせてたくねーし」
いつもの乱暴な口調で勢い任せに悪態をついた。
「そりゃ悪かったね」
「そう思ってんならさっさと帰れよ。まあ、一緒に居たくねーのはそっちも同じだろうけど」
「…そうでもないけど」
既にこちらに背を向けて歩きながら煙草に火を点けている笹塚の呟きに、吾代は顔を向けた。
「おい、今何つった?」
「…いや、だから、俺は別にあんたのこと嫌ってるわけじゃねーって…」
答えながら緩慢に振り返った笹塚が、吾代に告げた。
無言で立ち尽くす吾代を怪訝そうに見て、
「じゃ、帰るから」
と再び背を向けて歩き去った。

「…社長、俺どうしちまったんだ…?」
笹塚が去った後、吾代は墓前にしゃがみこんで呟いた。
「…ありえねー…」
嫌いじゃない、その言葉がこんなに嬉しいなんて、認めたくない。
社長が生きてたら笑うかな。
そんなことを考えて、缶に少し残っていたビールを煽った。
温くて不味かった。
けれど、気分は悪くなかった。

end.

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