妄想小箱
□Trick or treat
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【Trick or treat】
-大人の場合-
「とりっく おあ とりーとぅ!」
「……………は?」
舌っ足らずな声で何やら叫びながら部屋に来た愛し子は、普段とは違う奇っ怪な格好をしていた。
真っ黒なフード付きパーカーと黒い短パン、そして黒と白の縞々の靴下と格好だけは普通なのだが要所要所に奇妙な物が付属している。
白い角とか。
黒いコウモリの様な羽とか。
先の尖った黒い尻尾とか。
特に黒い尻尾の中に何か仕込んであるのか、それの先端は緩やかなカーブを描きながら天を差している。
「だぁかぁらぁ、Treak or treat!!」
自分の世界に入り込んでいた俺を咎める様に、愛し子は軽く拗ねながら先程の言葉を繰り返した。
「Trick or treat……。嗚呼、ハロウィンの決め台詞か。意味は確かお菓子をくれないと悪戯をするぞ、だったかな」
「そう!だからお菓子をちょうだい?」
私が意図を汲んだのが嬉しいのか、彼は目を輝かせながら菓子をねだってきた。普段ならば好きなだけ菓子を与えるのだが、菓子は昨日の内に彼が食べ切ってしまっていた。
「残念ながら、お菓子は昨日の分で最後なんだ。少しの間留守番が出来ると言うのなら今から買って来るんだけど」
「しってるよ。」
「えっ?」
「だって今日のために食べきったんだもん。お菓子が用意できなかったんだからいたずらさせてくれるよね?」
「…………降参だよ」
全く、私の愛し子は知らない内にズル賢く成長してしまったらしい。子供は何時迄も可愛いままでいてくれないんだな。
「それで、君は私に何をしたんだい」
「えっとね、今日一日ぼくといっしょにいてほしいの!」
「それはハロウィンの悪戯とは少し違うんじゃないかな。それに、普段から一緒にいるだろう?」
前言撤回。私の愛し子は可愛いらしいまま、成長してしまっているらしい。
「ちがうよ。ご飯からおふろ、寝るまでいっしょにいていっしょのおふとんで眠るんだ」
神様。貴方は私の理性を試しておられるのですか?
愛し子と一緒に住んでいるだけでも辛いのに、一緒に風呂に入るとか、苦行以外の何物でも無いではないですか。
「どうしたのー?早くおふろにいこうよー」
「はいはい……」
彼が理性を保てたかどうかは、貴方の想像にお任せ致します。
→子供の場合