story

□禍転じて
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「はぁ〜…」



クラスの真面目くん志村新八は、その日何度目かの溜息を吐いた。
今日の教室掃除当番は新八と沖田と神楽、だったのだが、あの二人がおとなしく掃除するわけもなく、見事ばっくれられた新八は広い教室を一人、箒片手に掃除するのであった。



(あ〜、早く終わらせちゃおう…)



先生が点検するわけでもないのに律義にしっかりするところは、なんとも新八らしい。
教室のゴミを箒で前から後ろに送っていると一つ、机にカバンがぶら下がっている席を見つけた。



(あれ?誰だろう)



クラスメートの皆はHR終了と共に外へ流れ出たはず。しかもこの席は…?
答えまで後一歩というところまで考えたとき、ガラッと音を立てて教室のドアが開かれた。



「あ」


「た、高杉さんっ!」



あぁそうかこの席…



「おめェ一人で何してんの?イジメ?」


「いや、えっと…」



そうではない、けど、確かに泣きたくなる状況には変わりなかった



「僕以外の当番の人が帰っちゃって…」


「…なるほど、な。お前もサボっちまえばいいのに」


「でも、一応決められてることなんで!」




反するようなことはしたい。というか、自分だけでもしっかりしときたい。



「…ヘぇ、面白ェなお前。俺も手伝ってやんよ」


「ハハ……えっ!?」



今、なんて!!?



「手伝っちゃいけねェなんてこともねェだろ?」


「でもっ、悪いですよもうすぐ終わりますし!!」


「むしろ手伝わせろ。暇だし」



そう言うと高杉さんは掃除用具入れから箒を取り出し、始めた。
あの高杉さんが……ていうか、




ぶっちゃけ、超気まずい。



このクラスになって数ヶ月経つが、正面に話すのはこれが初めてだった



(何話したらいいんだろ…)



暫く無言で手を動かしていたが気遣いキャラの新八が沈黙に耐えられるわけもなく、結局新八の方から口を開いた。



「あの〜そういえば、こんな時間までどうしたんですか?」


「あぁ…銀八とちょっとな」



そうなんですか、といって頷いた。
至って正常な神経を持つ新八は、確かに授業サボったりタバコ吸ってるらしいから、怒られてきたのかな、と思うだけにとどまった。
それから他愛のない話をして、結構優しい人かもしれない、と自分の中の認識を改めた。塵取りに集めたゴミを捨てた時、ふと思った




(これでさよならか…)




クラスメートだから顔を合わせることはあっても、日常的全く関わりがない2人はこんな風にサシで話すことはもうないだろう。
そう思うと、ちょっともったいない気がした。




「今日はありがとうございました」


「別にいいって」



終わった掃除をちょっぴり恨んだ。
もうちょっと一緒にいたかった、なんて言ったら引かれるだろうし…
必死に次のコトバを探しているとカバンに手を掛けた高杉が聞いた。



「帰ンねェの?」



こうなったら当たって砕けろ、だ



「高杉さん、よかったらご飯でもいきませんか!?あの、今日のお礼というか…っ」



必死な自分が格好悪いとか、気にしてる余裕はなかった。

目の前のものを手にしたくて、夢中だった




「…いいぜ?もちろんテメェのおごりでな」


「…はいっ!!」




西日が射す校舎に、笑う2人の影が伸びた。




END

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