02/10の日記

23:31
金廉って結構癒し系だと気付いた
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タイトル詐欺。全然金廉じゃない上に全然癒し系でもない。暗い。



「満足?」
その言葉を残して、志摩はいなくなった。


昔から、その短気な性格を直せとよく母に言われたものだった。周りも見ずに暴走すればろくなことはない、と。結果はごらんの有様だ。
祓魔師に拒否権はない。こちらも無事では済まぬ強大な相手だと知ったとて、要請があれば退治に赴かねばならず、退くことは許されぬ。それは明陀だの正十字だのといったくだらぬ矜持だったか知れぬ。
そしてその時、勝呂を含む明陀は強大な悪魔との対決にて命の危機に陥っていた。
何度も危険だから退けと諭す志摩を振り切って前線に躍り出たのは、斃れる仲間に我慢がならなかったからだ。相手取る悪魔は頭がよく、弱い順に確実に数を減らして連携を崩していった。驕りがあったのだろう。自分には伽婁羅がいる、そもそも不浄王に比べればなんてことのない相手にも見えた。ああ、今なら言える。俺は驕っていたのだ。

「ッ坊!!」

分かっていたではないか、そいつは頭のいい悪魔だということが。連携を崩す知恵を持つ悪魔だ、指揮を取る頭がいれば、真っ先に狙うのはそこだろう。悪魔は今まさに止めを刺さんとしていた祓魔師など忘れたかのように、勝呂に爪を向ける。そのあまりに早く的確な標的変更に、誰もが反応できなかった。

一番近くに居た、志摩を除いて。

「オン!」

勝呂を押し退け、さも当たり前のように己の身体を犠牲にした志摩は、悪魔の爪に腹を抉らせながらも果敢に己の錫杖を悪魔に突き刺す。動けぬ悪魔はあっけないほど簡単に消滅し、そこには腹から口から血を垂れ流す志摩だけが残った。

「あ、あ…志摩…」
「廉造ッ」
「廉造ォォオオオ!!!!」

呆然とする勝呂を押し退け、柔造と金造が駆けつける。弟の状況に顔色を真っ青にさせてひたすら弟の名を呼び、八百造も離れた陣地から全力で駆けて来た様だった。
廉造は。



「…これで、満足?」


それは誰に向けた言葉だったか。
常から勝呂の血統を守れと言いつけてきた父に対する皮肉か、無意識に末の弟から長兄を見ていた柔造への当て付けか、それとも立場を弁えぬ無謀を行った勝呂への嘲笑か。
なんにせよ、その言葉が志摩の最後の言葉だった。腹に穴を開けて血反吐吐きながらも、凡そ似つかわしくない穏やかな笑みを浮かべて一言のたまった。満足か、と。そうしてふい、と身を翻して怪我人とは思えぬ軽やかな足取りで走り去る。追いかけても追いつけず、血の痕を辿ろうにも周囲は仲間が流した血で泥濘化している。とうとう見つけること叶わず、志摩は帰ってこなかった。
ただ一人、金造が泣いた。声を上げて「廉造、廉造!」と馬鹿の一つ覚えみたいにその名を繰り返し、周囲も憚らず泣き喚いた。勝呂は泣けなかった。柔造も、八百造も。顔色を青くして、只管悲哀とも悔恨とも付かぬ感情を持て余している。
「廉造…どこ行ったん…廉造…!」
連日、弟を探しに走り回る金造の慟哭を聞きながら、三人は唇を噛み締める。泣く資格も、探して連れ戻す資格も、己にはないのだ。
いつだって、心には後悔しかない。





あまりにアレなんで救済エンド。金廉だよ!
そして私は一体何度志摩を落とせば気が済むの…






弟がいなくなった。
隊の連中は弟が死んだと言いくさりよるけど、そんなん嘘や。廉造は迷子になっとるだけや。酷い怪我しとったから、泣いてるかもしれん。はよ見つけたらんとあかんのに、柔兄もお父も坊も、みんなしてむっつり黙って動かへん。阿呆共や、弟が、廉造が泣いてるかもしれへんのに!!
誰よりも我慢強かった廉造。誰よりも甘ったれやったくせに人一倍我慢して辛抱して下手な誤魔化しばっかしよった廉造。俺の弟、可愛い弟、たった一人の弟!勝手に潤む目を乱暴に擦って叫んだ。
「くぉら廉造こんボケェ!はよ帰ってこんとお前のエロ本全部燃やしてしまうからな!!」
「ええー…それは勘弁して欲しいんやけど…」
「れんっ…」
果たして、そこに廉造はいた。京都の荒れた山の奥深く。誰ぞの私有地であるらしいこの山は手入れされることもなく生い茂る草や腐れて倒れた木もそのまま放置してあるため見通しは頗る悪い。それでも、ピンクがかった茶色の髪を草木の合間に見つけて金造は無我夢中で駆けた。廉造!廉造!廉造!!
「廉造!!」

喜色あらわに顔を向ければ、そこに居たのは廉造ではなかった。

「…堪忍え、金兄」
「あ、くま…」

黒白反転した目が悲しげに歪む。そこに居たのは悪魔に身を落とした弟の姿だった。

「廉造…お前」
「堪忍…堪忍え…死にたくなかったん、俺。矛兄みたいにできひんの。死にたない、死にたないばっかで、気ぃついたらこんなで…堪忍なぁ…」

ほろほろと廉造の目から零れるそれを追いながら、金造はゆるりと息を吐いた。廉造の衣服は腹部を中心に真っ赤に染まっていて、どれほどの出血量であったかを凄惨に伝えていた。もし悪魔が廉造に憑いてくれねばきっと命を落としていただろうことは想像に難くない。
であるならば。

「金兄…?!」
「よかった…廉造、生きててくれておおきになぁ!良かった、良かった!!廉造が生きとったああ!!」

弟を抱きしめて、幻などではないことを確認して、思い切り泣いた。わんわん泣いた。生きていた、たった一人の弟が生きていたのだ!それ以上何を望む?悪魔落ち?それがどうした、むしろ悪魔を利用して生き延びたこいつを褒めろ!

「金兄…怒らんの、見捨てんの、」
「阿呆!むっちゃ怒っとるわ!お前なんでこんな山ん奥におるんや!あちこち探し回ったやんけ!門限までに帰ってこいやぁあ…!!」
「せやかて、っふぇ、おれ、あくまおちしてんで?祓わんの…っ」
「祓うかボケ!!俺の弟やぞ!俺の家族やぞ!!誰にも祓わせへん…っ!!」
「ふ、ぅっ…きん、金兄ぃ…うあ、うあああああん!!」
「うわあああああん!!」

二人して、阿呆みたいにわんわん泣いて、真っ赤に腫れた互いの目を見て笑って、そうして手を繋いで帰路を辿る。きっと皆が廉造を責めるだろう。廉造を蔑むだろう。それを分かっていながら廉造を家につれて帰るのは正しいことなのか、わからない。何せ家族が認めるド阿呆とは俺のことだ。
もし、廉造が帰りたくないと言ったらどうしようか。


「俺な、金兄の使い魔になろかな」
「なれなれ。お兄様の為に骨身を削って働けよ」
「えーしんどそうやなぁ…」
「男に二言はないで!はいけってーい。ほんならさっさと使い魔申請しにいこか」
「え?今日!?早ない!?」
「はよせんと、いつ祓われるかわからへんぞお前」
「さぁ行こうすぐ行こう!…ところでその申請ってどこでするん?」
「……知らん」
「………お父に聞きにいこか」
「……おん」

廉造の真意はともかく、今は家に帰ってお父に使い魔の云々を教えてもらおう。
繋いだ手には、在りし日の温もりは欠片も感じ取れなかったけど、廉造がそこに居て笑っていてくれるのなら、自分はきっと明日も明後日も明々後日もずっとずっと笑っていられる。
廉造は笑っていた。悪魔に身を落としながらも嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに。
俺は、今とても幸せだ。

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