01/15の日記

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はっちゃけた雪志摩が見たくなって
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志摩には運がない。
そりゃもう絶対的に運がない。
そもそも産まれたときからしてなんだか貧乏くじを引いていた気がする。
まず、勝呂の坊と同い年に生まれ(これで俺の行く末は決まったようなものだ)
長男の命と引き換えに産まれた末っ子という肩書きを押し付けられ(顔も知らない相手だというのに)
末っ子故に、親に特別構われることも愛されることもなく(優先順位の低いこと!)
かといって自由に生きられるわけでもなく(なんせ坊と同い年だ)
体だけは丈夫に生んでくれたようで心だけが病んでいく毎日の中、貧乏くじばかり引いている。それも自分の意思でなく。
はぁ、と溜息を吐いた。志摩はこの頃、自分はそういう星の下に産まれたのだと思うようにしている。だっていちいち嘆くのも面倒になってくるほどに志摩は貧乏くじやはずれくじばかり引いていた。おみくじで大吉なんて見たことないし、福引10回やればティッシュの山が築かれる。ジャンケンだって壊滅的に弱いし、ビンゴゲームで最後までリーチにすらならなかった時は既に悟りの境地を啓いていた。
(きっと俺の運全部、金兄が奪ったんや…)
隣で真っ先にビンゴを制したすぐ上の兄を思い出し、頭垂れる。あの男は頭は悪いが運ばかりはやたらと良かった。まったく腹の立つ!
話を戻そう。
そう、志摩はもう諦めの境地に至るほどに自分が貧乏くじを引いていることを自覚している。きっとこんなはずれ人生俺だけや…とも悲観している。
そんな折、彼と出会ってしまった。
聞かれたなら、運命だと答えるだろう。直感的に感じたのだ、彼こそが己の半身である、と。傍に居た勝呂や三輪の事など意識の外で、志摩はただただ彼を見つめた。彼も志摩をじっと見ていた。その目にはやはり驚愕と歓喜。ようやく出会えた!そんな言葉が聞こえてくるような。

「…雪男?どうした、ぼうっとして」
「志摩?どうしたんや、そない呆けて」

彼、奥村雪男と志摩廉造はゆっくり近寄って手を取った。
そう、志摩が運命だと直感したのは奥村雪男であったのだ。彼の兄がサタンの息子であることを知った今、志摩は。

・産まれた瞬間から魔障持ち
・兄の尻拭いポジション
・幼い頃から重い秘密を背負わされた上での二重生活
・現在も高校生と講師の二重生活
・唯一の肉親が現在進行形で処刑の危機

ぶわりと涙が浮かんだ。涙を流すなど何年ぶりだろうか、酷くしょっぱい。

「わっわかせんせい…!ご苦労さんです…っ俺、おれ、自分が恥ずかしいわ!こんなんで自分のこと貧乏くじやて拗ねてて…若先生、苦労しはったなぁ…!!」
「いいえ、いいえ…わかってくれるだけで嬉しいんです。身近な人を憎み、嫉み、厭う気持ち、よくわかります…っ君もそうなんでしょう?」
「せや!産まれたときから背負わされた重っ苦しいもんが嫌で嫌でしゃあなかった!こんなもん、俺が背負いたいて言うたわけでもないのに!でもそれを取っ払った俺の価値なんて塵程度もあらへんの…」
「そう、自分が疎ましく思うオプションこそが僕らの価値を成り立たせてる。そうしてどうしようもなく雁字搦めになって、足掻くことすら諦めてる」
「若先生…!」
「志摩くん…!」

同志よ…!そんなノリで二人は固く抱き合った。泣きながら熱い抱擁を交わす二人はさぞや奇妙な光景に映った事だろう。なにせ志摩はともかく片一方は真面目な優等生で音に聞く奥村雪男なのだから。ほら今もどこかで女生徒の黄色い悲鳴が聞こえる。それにしてもシマユキだのユキシマだの何の呪文だろうか。

「ちょ、雪男!?どどどどうしたんだよ!兄ちゃんお前のそんなハイテンション見たことねぇぞ!?」
「し、し、志摩!!何を…っおま、お前ええ!!」
「「うるさい黙ってろ元凶!!」」

雪男が勝呂に、志摩が燐に怒鳴りつけた声はぴったりとシンクロした。そうして、再び二人は熱い抱擁を交わす。このままだとうっかりキスにまで発展しそうな勢いだ。どこかでは女生徒の「修羅場!修羅場!」という声援が聞こえる。

「志摩くん、できれば僕は君ともっと仲良くなりたい…」
「俺もや若先生、初めて出会えた対等な人やもん。名前で呼んだってや」
「じゃあ志摩…廉造くんも」
「…雪男くん?ふは、照れるわぁ」

二人の周囲にはピンクの花が飛び交い、なんだかとてもいい雰囲気だ。とても、そう、とても甘ったるい。バカップル爆発しろ、そんな呪詛が聞こえるほどには。
けれど、今の二人にもう怖いものはなかった。貧乏くじだらけの人生でも、仲間がいればこんなにも心強い!

「志摩…なんでや…!」
「坊、気を確かに!」
「志摩…志摩ああああ」
「兄ちゃん認めねーぞ雪男!!」

そんな声が外野から聞こえるが、二人にはそんなものただの背景でしかなかった。ただのモブでしかなかった。
自分の半身が目の前に居る、それだけで二人の世界は完結していた。
通りすがりの神木出雲はそんな光景をちらりと見て、ふんと鼻で笑う。

「ただの傷の舐めあいじゃない。馬鹿みたい」

そんな真理を言い当てた声など耳に入らず、彼らはじっと見つめている。相手の目に映った傷ついた自分を。








志摩と雪男って自傷行為だとか自慰行為だとかが似合う気がする。
………こんなはずでは…
本当はただの意味のない雪志摩書くつもりだったんだけどにゃ。
周囲から見たらバカップル爆発しろ!のくせに本人たちは「はじめてのおともだち!」ってにこにこしてる感じの。
どうしてもどっかしらが暗くなる。何故。

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