12/11の日記

16:33
短気な志摩くん
---------------

志摩家当主、八百造を筆頭に、彼の家族は皆気が短い。口よりも先に手が出るタイプと言おうか、彼らの躾は専ら口よりも拳だった。座主の一粒種、将来彼らの上に立つ立場の勝呂ですら野菜泥棒で八百造の拳骨を頂戴したことも少なくない。
さて、そんな志摩の家に生まれた末っ子志摩廉造は周囲が驚く程に短気という言葉が似合わぬ人間であった。彼はへらへらと笑って面倒なことは全て笑って受け流してしまう性格だった為、殴りあいの喧嘩だってしたことがない。あの志摩の家の者だというのに。
志摩の家を知る者、皆が皆彼を見て首を傾げた。志摩の子であるというのに、なんとまぁ。
だが、勝呂は知っている。
志摩は、確かに兄ほど短気なわけではない。だがしかし、畢竟志摩は志摩でしかないということを、彼ら幼馴染は知っている。


さて、前置きはこれくらいにして本題に移ろう。
話の始まりは、たまたま勝呂と奥村兄が談笑していた事だ。当人たちはまるで自覚していないが、彼らの人相は控えめに申し上げても決してよろしくはない。金髪の鶏冠に耳を飾り立てるシルバーピアス、目つきとて、え?寺の子?坊っていうからてっきりそっちの三代目とかだと…そんな誤解を生む程度の悪さを誇っている勝呂竜士。加えて奥村兄、彼は幼少の頃から喧嘩三昧の生活を送ってきた為か、メンチの切り方が最早玄人である。伊達に喧嘩で慣らしては居ない。そんな彼らが二人揃っていたならば、もう存在そのものが喧嘩を売ってるレベルとして不良さんたちに目をつけられるわけだ。まったく理不尽であるが、不良と言うものはそもそもが理不尽の塊なので仕方がない。

そうして、不良ABCDEに絡まれた二人は、慣れた調子でそのつり気味の目を一層凶悪につりあげた。不良Eはそこで少し逃げ出したくなった。

「なんやお前ら、いきなり人のこと囲みよって。なんぞ文句あるんか、お?」

関西弁ってどうしてこうも迫力あるんだろう。不良BとCはそんなことを考えて絡んだことをちょっと後悔していた。

「はっ調子扱いてる一年がいるっていうからどんなもんか見にきてやったんだよ!」
「勝手に見物しくさって、なんやねんその上から目線」

ちっと舌打ちすればいきり立つAとBとC。Eはもういい加減帰ってゲームしたいなぁとか考えていた。
ちなみに静かな奥村兄はDとのにらみ合いで忙しい。
そうして、いざ殴り合いに発展しようか、とその時

「ぼーん」

気の抜けるような声が、否、確実に勝呂は気が抜けた。そんな声が緊迫した雰囲気をぶち壊した。言うまでもない、志摩の末っ子志摩廉造の登場である。
志摩はぱちぱちと瞬いて、首を傾げて問うた。
「…坊。喧嘩真っ最中?」
「ちゃう、因縁つけられとるだけや」
「それ、長なりそう?」
「そらぁ、相手次第で…」

ゴン、そんな音とともに不良Eが沈んだ。彼の頭部には立派なたんこぶが拵えられ、志摩の手に握られたキリクは己の凶暴性を示すようにギラリと鈍く光った。

「おま、何しとんねん!!」
「え?やって、子猫さん待っとるし、はよ坊連れ戻さな思て…」

ぽかんとあっけに取られる不良と奥村兄。はんなりとした話し方と愛嬌のある垂れ目の男がまさか誰よりも早く手を出すとは到底信じられなかったのだ。
志摩は相変わらずのんびりとした口調でキリクを構えながらのたまった。

「どうせ坊返したって、て言うても返してくれへんでしょう?せやったらこっちのが面倒なくてええわ」

話し合いより拳を選ぶ。そちらの方が手っ取り早くて面倒がないと。なるほど、やはり彼は志摩家のものなのだ。
構えたキリクは当初と変わらず鈍く輝いている。






志摩くんは結局志摩の人間なんだから、話すより殴った方が早いという考えの持ち主であればいいと思う。
そんな考えは結構前からあったけど、話にするにもなかなか…うーんスランプですにゃ。

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ