11/21の日記

20:39
自己満足の押し付け合い
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坊が好き。泣くほど好き。もし坊が手に入るなら他は何もいらないと思えるくらい、俺は坊が好きだった。坊が一番だった、全てだった。きっと俺の頭の中を真っ二つに割ったら、中には坊のことしか入っていないんだろう。おかげで金兄に次ぐ頭の悪さながら、それでまったく構わなかった。だって坊が真剣になって俺に勉強を教えてくれる。幸せだ。
好きだった。大好きだった。坊を守る為ならいくらでもこの身を投げ出せる。そういう意味では志摩の家に生まれたのは僥倖だったのだろう。大義名分の下で大手を振って坊を守れる。不自然なんてどこにもない。嬉しかった。嬉しいはずだ。

(わかってた。その隣に立つのは俺じゃないって。そんなこと、とうの昔に)

坊はいつか可愛い嫁さんもらって子供つくって円満な家庭を築き、明陀を盛り立てていくのだ。構わない。だってそれは坊の夢に必要な事だ。俺はただただ坊の盾であればいい。あらゆる災厄を振り払い、時に坊の身代わりとなって彼の人の幸せを守るのだ。志摩冥利に尽きる素晴らしい人生じゃないか!そうだろう?
だというのに、彼の人は言うのだ。

「お前は…お前だけでも、お前自身の為に生きぃ。俺の為でなく、己の為に。明陀なんてええ、家柄なんぞええから。お前はお前の道を歩いてええんや…なぁ、志摩」

どうして。どうしてそんな優しい声でそんな残酷なことが言えるのか。
今日の実習で坊を庇ってついた傷を撫でる手はどこまでも優しい。けれど零れる言葉はするどい刃となって俺の胸に突き刺さる。

「志摩、志摩。お前は死ぬな、俺の為に死ぬな。お願いやから…俺にお前を殺させんでくれ…」


俺に、坊の為に往くなと言う。坊の進む道についてくるなと言う。守ることさえ否定されたら、俺はどうすればいいというのか。
途方に暮れた頭がふっと冴えた。そうだ、坊の盾は俺だけじゃなかった。志摩はたくさん居る。しょっちゅう欠けたりヒビの入る脆弱な盾など坊には相応しくない、そういうことだろう。

「ふ、ふは。ははっ…」

急におかしくなって笑い出す。坊が怪訝な顔をしていたが、止まらなかった。

「そっか、そうやな。3枚も4枚も盾ばっかいらへんよなぁ…あ、兄らはどっちか言うたら矛やろか…」
「志摩?何言うて…」
「じゃあ、もっと強なったら、志摩の誰よりも強くて頑強な身体やったら、坊の傍におれるんかな」
「志摩…?おまえ……ッあかん!そっち行ったらあかん!志摩!」
「坊、大好きやで。坊の為やったら何でもできる。何だって捨てられる。俺は坊しかいらへんの」
「志摩ァ!!」

坊以外、なんもいらへんの。友も家族も、自分自身も。







ま た こ の オ チ か 

一体何度目かの悪魔落ちなのかわかりません。
 

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