小説(忍たま)

□毒朽ちる
1ページ/12ページ

今まで想像した事もないような平穏の日々、それでも終わりはやってくるものだ。
季節は巡り、もうじき今期は終わりを迎える。長期休みの間、土井は里に戻ることになるだろうし、学園に戻ることはないだろう。
長いような、短いような、不思議な日々だったと土井は思う。だが、不快ではない。きっとこの思い出は私の中にいつまでも残るのだろう―――
などと美しいままで終われないのがこの忍術学園の忍術学園たる所以である。

「どういう、ことですか」
「言った通りじゃ。半助、そなたをこの忍術学園は求めておる」
「私は既に忍びです。今更学園に通ったところで…」
「そうではない、異例の若さじゃがな。まぁ悪くない話じゃ」
「はぁ…」
「土井半助、そなたをこの忍術学園の教師として迎え入れたい」
深夜、学園長室に一本灯ったロウソクが、じりりと揺れた。学園は昼間の賑やかさが幻であるかのように、静まり返っている。
今日で学園の学期は終わり、明日からは長期休みに入る。家が遠い者はそのまま学園の寮に留まるが、気の早いものは既に何人か出立していた。
土井も、明日を待たずに出るつもりであったが、まさかこんな時間に学園長に捕まるとは計算外であった。挨拶をさっさと済ませて出て行こうとするも、あれよあれよと丸め込まれてこうして学園長室にて対峙する事になってしまっている。さすがはこの学園の祖というわけか、古狸め。

「冗談じゃありませんよ。どこぞの城を落として来いと言うならまだしも」
「全くだわい」
「しっ重元様!?」
天井裏から聞こえた、覚えのある声に半助の体が浮き上がる。いやまさか、そんな馬鹿な。
「おお、半助。久しぶりじゃの、壮健であったか」
「え、ええ…じゃない!組頭がこんな所で何やってるんですか!!」
「なに、半助に会えんで重武の奴が拗ねてのう…仕方ないからワシ自ら迎えに来たんじゃよ。半助は帰って重武の相手をしてやれ。それで今回の件は不問に処す」
「は、…え?」
何かとんでもない事をさらっと言われた気がする。
「しげっあ、いえ、組頭!なんて事言うんですか、私はきちんとお咎めを受けるつもりで…」
「じゃから重武の相手をすることが懲戒じゃと言うておろうが。ほれ帰れ帰れ」
組頭にそう言われては下っ端の土井は何も反論できない。黙って頭を垂れ、その場を下がった。


「さて、と」
「おお、逃がしてしもうたか。残念じゃの」
「大川平次渦正、あれに目をつけるとは、なかなかの目を持っていらっしゃる…と、言いたい所だが、あれに手は出さんでもらおう」
「ほっほ、隻眼の地獄人、朔月為三郎重元の秘蔵っ子というわけか」
「いや、倅が気に入っておるんじゃ。それにうちの里のなかでもなかなかの手錬ゆえ、手放したくはない」
「しかしのう…こちらとしても教師不足は深刻な問題でな。ならばそちらの里の者、何人か見繕ってこっちに回してくれんか」
「抜かせじじぃ、こっちだって常時人手不足じゃわい。それにあの半助が泣くほどの場所、そんな危険地帯にうちのモンをやれるか。気が違えたらどうしてくれる」
「…それはそっちの里に問題があるんじゃろうが。どんな教育しておるんじゃ、全く」
「何と言おうとウチのモンは貸さぬ」
「ええい、ならこれで勝負じゃ!」
「飲み比べ、か…久しいわ」
「わしが勝ったら半助を貸してくれ。負けたら諦めよう」
「待て、それではわしが勝っても何にもならんではないか」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ