小説(青エク)

□だってあんなに可愛い弟が悪い!
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人間誰しも体調の悪いときは人恋しくなるものである。
それは志摩家の末っ子廉造とて例外ではなく、むしろ末っ子として甘やかされた結果その傾向はより顕著だ。
だからこそ、風邪を引いて耐え難い頭痛に襲われ、柔兄に甘えに行ったのは自然な流れといえるだろう。誤算だったのは、柔造が最近反抗期に入った弟とのスキンシップに飢えていたということで。

おかしいやろ。

志摩廉造は痛むこめかみを抑えて目を閉じる。眉間に皺が寄った所を大きな掌がそこを撫でた。

「廉造、頭痛むんか?」

心配そうな声がすぐ後ろから聞こえる。聞きなれた声だ、低く落ち着いた次男の声が廉造は大好きだった。
(いやでも、これはどうなん)
痛む頭を抑えながら、ゆっくりと振り向けばすぐそこに柔兄の顔がある。近い近い。にへ、と笑えばにこ、と爽やかすぎる眩しい笑みが帰ってきた。
廉造は痛む頭を無視して、現状を振り返ってみた。

現状。
柔兄の膝抱っこ。

「いやいやいやいや、おかしいやろこれはおかしいですやんどう考えても」
俺もう中学生やのに膝抱っこて!
柔兄の腕から抜け出そうともがけば、いっそう抱きしめる腕に力が入った。なんでやねん。

「こーら、廉造。具合悪いんやから大人しくしとき」
「いやっだってこれは色々耐え難いもんがあるっちゅーか男としてどうなんコレ」
「廉造が言うたんやで?頭痛いさかい甘やかしてーて」
「言うたけど。言うたけどね?普通こうなる思わんもん」
「ええやん。俺は嬉しいで?廉造が甘えてきてくれて。もう兄ちゃん今日はベッタベタに甘やかしたるからな!」
「やめて!堪忍して!!」

だって、恥ずかしいじゃないか。こんな中学生にもなって兄に膝抱っこで頭撫でてもらうなんて!そしてそれが満更でもないなんて!

「ふはっ廉造の髪ふあふあやなー」
「んっ髪質は柔兄も似たようなもんちゃうん?兄弟なんやし」
「俺はごわごわしとるで」
「それは柔兄が石鹸で頭洗とるからや」

会話の合間にも柔兄の手は俺の頭を撫で、ぎゅうと抱きしめてくる。首筋に当たる柔兄の鼻がこそばゆいが、背中に感じる人の温もりに、妙な安心感を覚えた。

(…人に抱きしめてもらうんて、久しぶりやわ)

背中がほかほか温かくて心地良い。すり、と柔兄の胸に擦り寄れば、一瞬強張った後に一層強く抱きしめてくれた。

「へへ、あったかい」

頭痛はいつの間にかどこかへ行ってしまったようだけれど、それはしばらく内緒にしておこう。もう少しだけこの温もりを堪能したいのだ。
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