小説(青エク)

□泣いた弟はとても甘い
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廉造は俺の五つ下の弟だ。虫が怖い弱虫でしょっちゅうびゃーびゃー泣いていた。
俺は廉造を泣かせるのが大好きだった。

「ほれ、廉造みてみぃ!カマキリやぞー!」
「びゃああああ!いややゆーてるやんかぁあ金兄のあほー!!」
「兄ちゃんに向かってアホ言いなや!そんな奴はカマキリの刑やー!」
「ややぁ!こっち来んで!!柔兄!じゅーにー!!」
「ぎゃはははアホやこいつマジ泣きやん!」
「こらぁ金造!お前まーた廉造いじめとんのか!!」
「うげ」
「じゅーにー…」

その心底安堵した声音にイラッとする。
(なんや、もう泣き止みよる。おもんない)
廉造はよく泣く子供だったが、同時によく笑う子供でもあった。廉造の笑顔は嫌いじゃないが、父や柔造に宥められてへにゃりと安心したように笑う顔はあまり好きじゃない。
(やっぱ泣き顔が一番好きや)
そうして今日も金造は廉造にとび蹴りをかますのだ。

「わあああん!!柔兄いいいい!!」
「またか金造ーー!!」


正十字学園を卒業して、久しぶりに実家に帰れば、泣き虫だった弟が知らない顔をしていた。
へらへらと胡散臭い笑みを貼り付けて、硝子のような目をしていた。あの頃、こいつはもっときらきらした目をしていたんじゃないだろうか、もっと感情に溢れた笑みを浮かべていたんじゃないだろうか。
スキンシップと称して放ったとび蹴りも、土産と称してぶん投げた虫も、廉造は青ざめ全身で嫌がっていたが涙は見せなかった。

「もう金兄、全っ然変わってへんな!ちょーっとは大人になっとるか思うたのに!」
「……お前は変わったな」
「あ、せやろせやろ!もう金兄に追いつきそうやで!身長!」

確かに身長はそろそろ自分と並びそうだ。だが、背丈が急激に伸びたせいか肉が追いついておらず、どうも華奢というか危なっかしい細さがある。

「ちっひょろひょろ伸びおって…昔はアリ一匹でびゃーびゃー泣いとったのになぁ」
「むっ虫は関係あれへんやろ!っ大体今はそんな泣かへんわ!」
「ふぅん…」

泣かない、と言われたら泣かしたくなるのがいじめっ子というものである。絶対泣かしたる、と乱暴に廉造を自室に引きずり込んだ。

「いっ痛!な、何なん!?」

反抗的に見上げる弟は既に若干涙目だが、まだまだ足りない。どうしたら泣くかな、とふと思いついたのが弟の女好きである。
小学校の頃からエロ魔神と呼ばれるほどに女好きなコイツがまさか男にキスでもされたらどんな反応をするのだろうか、と。
ちょっとした好奇心のはずだった。

「ん!?んぅ!んむぅう!!」

驚きに目を見開いて抵抗する廉造、そんな抵抗を腕ごと押さえつけて唇を食む。
頑なに口を引き結んでいたのでそれ以上は進まなかったが、嫌がらせの反応としては上々だ。
ぷは、と口を離せば廉造は信じられないと言うようにこちらを見ていた。その目には涙が溜まっていて、今にも決壊しそうだ。

「なん…金兄、なんなん…」

くしゃりと顔を歪ませ、目に溜まった涙がほろりと頬を伝った。

ぞくぞくする。たまらない。

我慢できずに再び口をつけた。今度は舌も入れる。

「ぅ、も、ややぁ!何でこん…ッふぁ」

泣きながら暴れる弟が可愛くて仕方なかった。
もっと泣けばいい。もっと、もっと、もっと!

「ひっぅ、嘘やんな、金兄…」
「なぁ廉造」
「ッあ!」

ぐい、と廉造の腰に自分の腰を押し付けた。もう止まらないのだと、止められないのだと。

「キス以上のことしたら、お前はどれだけ泣いてくれるんかなぁ」

弟の顔が絶望に染まった。その表情すら愛おしい。

「ええ声で啼いてな」

俺は廉造をなかせるのが大好きだ。

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