11/02の日記

22:34
鬱な志摩
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特に何があったわけでもないが、ふと人に会うのが億劫になることがある。
人と話し、人に合わせて表情を繕う。いつもやっていることが酷く面倒くさくなるのだ。

『お前って本当カッコ悪いな!』
『馬っ鹿みたい』
『お前…ホンマしょーもないやっちゃな…』
『坊と子猫を見習えや』
『相変わらず情けない』
『お前は』
『志摩家の』
『志摩は』
『お前も』
『どうして』


「もうええよ」

皆がこちらを見ている。ああ、授業中だったか。奥村雪男が不快気にこちらを見ている。そんな些細な表情すら苛立たしくて、志摩は机につっぷした。坊や奥村くんの物言いたげな視線を感じる。そりゃそうだ、授業中に「もうええよ」て。何がええねんって話になるわな。ああ面倒臭い。
結局授業中一度も顔を上げることなくチャイムが鳴った。何度か雪男に顔を上げるよう促されたが、最初から最後までシカトしていたら何も言われなくなった。呆れられたのだろうか、だとしても話しかけないでいてくれるのならありがたい。

「おい、志摩。具合悪いんか」

嗚呼。志摩は胸中で嘆息する。面倒臭いの筆頭がきよった。うんざりしながら顔を上げれば、そこには勝呂と子猫丸。奥村兄弟に杜山しえみ、少し離れた所では神木出雲がこちらの様子を窺っている。塾のクラスメイトほぼ全員がこちらを見ている様に志摩は隠すことなく顔を歪めた。奥村兄はともかく、何故弟までいるのか、さっき呆れていたじゃないか。そして神木出雲はいつだってくだらないとこちらに構ってこないではないか。何故こんな時ばかり関ってくるんだうっとうしい。

「志摩?お前どっか悪いのか?今日全然喋らねぇし」
「なんや静かや思たらお前ずっと変な顔しとるし」
「志摩さん、具合悪いんですか?熱でもあるんですか?」
「わっわたし!風邪によく効く薬草知ってるの!ニーちゃんに出してもらうね!」

はい!と笑顔で草の束を差し出されたのを受け取るでもなく、無表情で見つめる。そんな志摩を信じられぬと言った態で見やる面々。いつもならでれでれと相好を崩して感謝とナンパを繰り出すだろうに、今の志摩はただただ無言無表情でどことも知れぬ虚空を見つめるだけだ。
塾生、特に奥村燐と勝呂竜士はやれ熱だ魔障だとこぞって志摩の額に手を伸ばす。
熱などない、ただ気分が優れないだけだと笑って言えば終いの話だが、今の志摩にはその動作ひとつすら酷く億劫で表情筋一筋満足に動かせない。

「おい…なんかしゃべれや」
「話せへんのですか?志摩さん」
「…僕でよければ診てみましょうか?」

普段散々黙れだの口を開かなければだの言っていたくせに、いざ黙ってみせれば何か喋れと言う。阿呆らし。
志摩は笑い出したくなったが、それも面倒なので黙って俯いた。と、俯いた拍子に筆箱から飛び出したそれが目に入る。
その瞬間、閃いたのだ。

喋りたくないのだというのなら、喋れなくなればいい。物理的に。

志摩はにっこり笑って(とても良い笑顔だったはずだ)右手で筆箱から飛び出たハサミを掴み、左手で自分の舌を掴んだ。
嘘吐きな舌は切ってしまおう!そうすれば少しはましな人間になれるかなぁ?





それからの皆の行動は素早かった。
燐がハサミを叩き落として勝呂は左手を子猫丸は足を押さえつけてしえみは召喚した木で志摩の身体を拘束し雪男が猿轡を噛ませて神木が神酒を喚び出して頭を冷やした。

木やツタでぐるぐる巻きにされた上に勝呂と子猫丸にしがみつかれて、酒でずぶぬれになった俺は、この後訪れるであろう皆の怒号や詰問等々を想像して一言「めんどくさぁ」と呟いた。猿轡のせいで「もごぁ」という奇妙な呻きにしかならなかった。






とくに何が書きたかったわけでもないのでよくわからん文章になった。まぁたまにはこういう日もあるよね。

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