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□日常の風景
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「へ〜んだ!蓮見の甲斐性無しっ!」「なっ!何だと一ノ宮っ!貴様無礼にも
程が在るぞ!」 馬鹿馬鹿しい言葉の応酬は先刻からずっと続いていて、いい歳をした二人の大人がいがみ合うその横では、其れがすっかり日常の風景と化したヨーコと春華がスギノや
むーちゃんと共に茶を啜っていた。「大体ね〜!蓮見がいけないんだよ、僕の
論文取ったりするから〜」「誰が貴様の記事等盗むかっ一ノ宮っ!大方、春華くんやロザリーに頼んで私の部屋から持ち出したのだろう?」「…あのねぇ。蓮見の研究と僕の妖怪研究記事はまるっきり向きが違うの!蓮見のなんか取っても
意味ないっつうの!」
「まぁ、だろうな、貴様の世迷い言なぞ、誰も信じはせん。」「あのね〜僕は」「…あのぉ〜」
「なに?」「何だ!」
「お客様が、お見えですけど…」
「あれ、あやめちゃん?」「あやめくん、何故こんなむさ苦しい所に?」
「…おい」
「…えと、一ノ宮先生に
お仕事のご依頼をしたいと仰る方が、先生の研究会に見えて」「僕に?」
「…コイツの依頼人が
何故私の摩訶不思議研究会に来るんだ」「ええ、其れが―」「…全く以って気に入らん。」「先生?」
「コイツの怪しげな裏家業とやらと私の純然たる科学的根拠に基づいた研究会が混同されるなど…」
「いいから。行くよ、春華」「待て一ノ宮、貴様私を差し置いて抜駆けとは許さんぞ。」「もう五月蝿い
なぁ、蓮見。此れは君じゃなく僕にきた依頼だよ?」 「私の所に来たのなら
私の依頼も同然だ。」
「…だから、依頼人が間違えたんでしょ。」
「何だと?」「あ〜もう!二人とも!いい加減にして!お客さんを待たせて
いがみ合ってる場合じゃないでしょ?」「…確かに」「ほ〜んと。蓮見のお陰で無駄な時間を過ごしたよ。」 「一ノ宮〜!」
「…はいはい抑えて」
「…だから、何で蓮見まで来るのさ」「学者としての純粋な興味だ。悪いか。」「べっつに〜?唯、こんなので昔の借りを返そうなんて、思ってないよね?」
「一ノ宮…貴様」「ほら、早く来ないと置いてくよ〜?」「貴様、学生の頃から根性悪だとは思っていたが、よもやここまでとは…」 「なぁにブツブツ
言ってんの。何かあった時僕一人じゃ蓮見まで面倒
見きれないんだから〜」
「貴様の世話になる義理等ない。」
「…ああ〜はいはい。」
「全く。こんな不埒な男に何故私が…」
「…そりゃ、キミが僕を
放っとけない位お人好し
だからでしょ?」
「…お前と付き合うには、相応の覚悟がいる」
「そうそう出来るもんじゃないよねぇ。蓮見くらいだ」「…残念ながらな」
「…否定しない処が、如何にも、お前らしい」
「事実だからな」
「…困るよ。」
「…何がだ?」
「其処は否定してよ」
「…訳が分からん」
「ああ〜やっぱもういいや」「そうか…さて、行くか春華くん。」
「ちょっと蓮見!何勝手に春華連れ出しちゃってんの!春華も〜」「…煩ぇ」
「お前に春華君を縛る権利はないだろう。」
「…く、ぐやじぃ〜
蓮見の分際でぇ」
「…あのー先生方?」
「あぁ、あやめくん、
待たせて済まないね…」
「いえ…」
「ほら、行くよ〜?
勘ちゃん」
「しょ〜がねぇなぁ、
俺達も行こっか。むーちゃん」「む〜」


「これは皆さんお揃いですのね」
「げ。また厄介なの来た…」
「ご挨拶ですのね、
勘太郎サン」
「貴方は英国国教会の…」「…そ、エセ神父だよ」
「む。無礼だぞ、一ノ宮。異国からいらした客人に
向かって」
「…招いてねぇ〜
っつうか蓮見忘れたの?
」「…何をだ?」
「…あ、あの〜」
「む、あやめ君、その本はもしや…!」」
「…っええ!昨日発売されたばかりの新作です!」
「…ってオイ蓮見!」
「相変わらず良い袴ですのね」
「げ、触んな、擦り寄るなぁ!」
「勘太郎…お前、性格変わってるぞ」
「―ん?いつもの事だろ」「…そうだな」
「そうよね〜」
「そこっ!何か妙に納得しない!」
「袴〜招き猫〜…」
「っああ〜もう!訳わかんねぇ!」
「…何をしているんだ、
一ノ宮。」
「勘太郎、置いてくぞ」
「あ、待ってよ春華〜!」

「エドワーズ探したよ〜」「…げ。」「見つかってしまいましたのね」
「あれ?よく見たら一ノ宮センセに鬼食いだぁ」
「一番会いたくないヤツ
来たよ…」
「はは、センセ、それ独言のつもり?凄いね。
蓮見先生もお久し振りです。お噂は予々…」
「…あ、ああ」

「あやめちゃんを訪ねたのはキミか…」

「そういうこと。この客人はじっとしててくれないからさぁ。研究会か、先生の家行ったら見つかると思って。 でも僕みたいな由緒ある軍人がだよ?庶民の
敷居を簡単に跨ぐ訳にもいかないでしょ?
ね、エドワーズ?」

「…ご免なさいですのね」

「…ま、いいさ。
お蔭で僕はあやめに会えた。ね、あやめ?」

「お兄様…」

「…勘ちゃん」
「っおまえ!」
「頼光く…」

「―ストップ!そこまで。」「…っ勘太郎?」

「頼光様。」

「さぁ源。もう目的は果たしただろ?お迎えも来たことだし、さっさと帰れよ。」

「…今日の処はそうさせてもらうよ。
先生と違って存外僕も暇じゃないんでね。」

「それじゃまたね、鬼食い一ノ宮センセ。」

「勘太郎っ離せ!」
「―駄目だ、春華。」
「っくそ…!」
「…名前の効力もいよいよ本領発揮ってトコだね、センセ?」
「五月蝿いよ。」
「どっちの望みが早く叶うかなぁ。ねぇ…渡辺?」
「頼光様、そろそろお時間が…」
「だってさ。さ、帰ろ。
それでは皆様、ご機嫌よう行くよ、エドワーズ?」
「あぁ〜袴ですのね〜」
「さぁ、アンタもご機嫌ようー!」

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