tactics

□白とビー玉
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「…大体さぁ、先生。そんなコトを鬼食いに求める事自体間違ってるんだよ。」

至って真面目に話をしている僕の傍らで、源はしゃぁしゃぁと持論を述べる。

その程度の結論、ボクだって疾うに出てるさ。「…春華はお前と違って純粋だからね。」


頬杖をついたままそう言うと「ぁ〜其れって密かに厭味だったりする?先生。」

だらしなく寝転がったまま大して傷ついてもいない癖に、源は大仰に肩を竦めて見せる。「ま、そう言うコトだけど」煙管の灰を落として、ボクは外を眺めた。
昨日の雨が嘘の様に
空は良く晴れている。

こんな天気の良い日に、
何でボクはこんな奴と、
こんな処にいるんだろう。其れは、勿論。


「…せぇ〜んせ!」衣擦れの音がして、源が傍に寄ってくる。…ぁあ、やっぱウザイかも。「何?」言いながら煙を吐き出すと「…つれないなぁ〜」源が僕の
肩に顎を乗せて溜息を吐く。「先刻はあ〜んなに素直だったのに…」肩に掛けただけの着物を取り去ろうとする手を止めながら、
「…欲望には忠実なの」
僕はまた溜息を吐いた。
源は笑って
「だよね〜?…そんで、
鬼食いに相手してもらえない先生は、こうして時々
僕を呼び出しては慰み者にする訳だ」相変わらず好き勝手言ってくれる。

「あれ?…先生怒った?
困ったなぁ〜」言葉とは
裏腹に少しも悪びれる素振りを見せずに源は僕の膝に頭をのせて、ちゃっかりと横になる。「…時間は?」僕が拒まない事を
良く知っているからだ。
「ん〜?今日はまだ平気かな」答えながら源は弄っている白い花を、無茶苦茶に千切り出す。「…僕はね、源。焦るつもりは無いんだよ。」「…ふ〜ん」
「―御前ね、面白くないからって花に当たるのはよせよ。」今や畳は源の散らかした花だらけだ。
「此処は御前の屋敷とは
違うんだから。」
僕の言葉に源は笑みを深くする。
「先生、何時から僕の
お目付け役になったの?」「成った憶えは全く無いけどね」
「…先生には〜赤の方が似合うよ?」そう言って僕の頬に源は手を伸ばす。
「…この白じゃなくて?」散乱する無残な白を
思い浮かべる。
「うん、血みたいな赤。」
さながら、肉片みたいな。厳かな白ではなく、
深く深い赤。
「―珠には、お前も良い事言うね。」穢れを知らないなんて常套句、生憎僕にはそぐわない。
「でしょ〜?」褒美とばかりに、額に軽くくちづけてやる。
「…こんなトコ、鬼食いに見つかったら、きっと卒倒しちゃうよね。」
「…五月蝿いよ」
折角良い気分になったのにこれじゃぁ興醒めだ。
源の頭を軽く叩いてやる。「…御免、御免、先生」
源は擽ったそうに首を捻った。無邪気な表情を覗かせる小生意気な餓鬼に、ふと普段なら絶対口にしない言葉を言って見たくなる。

「御前には、遠慮が要らないから好きだよ」案の定
源は瞳を猫みたいに丸くした。
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