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□夢と記憶
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決まってこの時期になると、ある悪夢に魘される。其れはとても生々しくてあの瞬間に感じた絶望だとか、無力感だけを僕に感じさせる。
――其れは未だ、僕が春華と出会う前の事だった。
あの頃、僕は鬼食い天狗探しに奔走していて、探しても探しても一向に見つからないその苛立ちから、かなり荒んだ日々を送っていた。僕は帝国大学に在籍する学生だったが、ろくに講義にも出席せず妖怪に会う為にあちこちを放浪していたので、留年を繰り返しては沼田先生を心配させていた。居もしない妖を追い掛けて、存在さえ不確かな落第生。極端に色素の薄い髪に珍しい朱色の瞳は、それだけで僕が異形の者か何かみたいに噂され、僕に近付こうとする人間は殆どなかった。帝都といえ、幼少の頃から奇異な視線に晒され外見について言われるのには慣れていたが、やはり少し煩わしさは感じていた。人は皆、自分とは異なる者、異質な物を排除したがる傾向にある。好奇な視線も、心ない言葉も、所詮ハルカに比べたら、僕にとってはどうでも良い事だった。そんな僕に声を掛けてくる奇特な人間もごく稀にいて、―其れは大抵の場合、興味本位であるのだけれども―蓮見了寛はその一人だった。
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