帝王

□救済
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あの情報を集めてから数日後、帝王は青春学園へと向かっていた。
テニス部を見るためである。

跡部たちが練習試合で得てきた情報は既に記憶してきているが、気になる所があったためにこうして帝王は出てきた。

ぱっと見良いところのお坊ちゃんに見える帝王はそこに立っているだけで人目を引く。
自分の容姿を理解している彼女は、今更気にもしないが。

勝手知ったる様子で学園内へと足を踏み入れる。
テニスコートがある場所はすでに不二に聞いてある。
まぁ、今日訪れることは言っていないが。

綺麗に舗装された小道を通る。
少しの距離を歩けば、大きなテニスコートが見えた。



テニスコートはフェンスで覆われ、その周りは沢山の女子に覆われている。



ふむ、とその様子に帝王は顎に手を当て考え込む仕草を見せる。


そして、陰に隠れて一人雑用を行っている、レギュラーだっただろう青年に声をかけた。



「おい」
「っ?!」

突然声をかけられ大げさなほどに跳ねた肩。
指には絆創膏。
頬には湿布。
頭には包帯。
右目に眼帯。
見えるところだけでもこんな満身創痍な状態なのだから、服に隠れているところにはきっと沢山の傷があるのだろう。

振り返った青年は、声をかけてきた帝王に明らかに怯えを含んだ視線を向け返事をした。

「な、んですか?」

震える肩に、帝王はそっと手を置いて

「俺様と来い海堂」

そう言って引き出した。

そして、肩を抱いたままコートにむかって歩き出す。
行き先を理解した途端に海堂は激しく震え、抵抗を始めた。

「や、いやだ、いやっす!!」
「いいから」

海堂の抵抗を押さえつけて帝王は少女を囲っている男たちの前に立った。

「おい、こいつも俺様が貰っていくぞ。異論は当然ねーだろ?」


かたかたと手のひらから伝わる震えに、微かに帝王の眉間に皺がよる。


前に会った部長が海堂をちらりと見て、

「るうなを強姦しようとした奴などいらんからな。好きにしろ」

そう吐き捨ててまた輪の中に入っていった。


不二がこちらを見て開眼している。

「なぜこんなところに」

そう視線で訴えているが、その視線すら海堂にとっては恐怖心を煽るだけに過ぎないらしい。


しかし。

いらないと言われてしまった現実に海堂の精神状況は限界に近かった。

不二が歩み寄ってきて、海堂の肩に触れる。

怯える海堂に向かって、ゆっくりと優しく微笑んだ。

「いらっしゃい、海堂。またあとでね」

そっと耳傍でささやかれた言葉を理解できずぱちくりと瞬きをする海堂を横目に、不二は輪の中へ戻る。

海堂は帝王に手を引かれ、荷物を纏めてテニスコートから出た。






校門の外で待機していた黒塗りの高級車に乗せられて訳の分からぬまま景色が変わっていく様子を眺めている。


けれど、海堂は目の前に座る人物が自分を傷つけることはないと、本能的に察知していた。



「あの、俺、海堂薫って、いいます…」

おずおずと口を開いて自分の名前を言えば

「俺様は跡部帝王だ。詳しいことは屋敷に着いたら教えてやる。でも、その前に手当てが必要だな」

相手も自己紹介をして、手を伸ばしてきた。
その手にびくりと身構えてしまうけど、帝王は気にせず手を伸ばして、優しく海堂の頭を撫でた。

高校生になってまで頭を撫でられるなんてそんな恥ずかしいこと、普段は嫌がっただろう。
けれど、マネージャーに嘘の事実を押し付けられて、それを鵜呑みにした仲間たちに散々暴力行為を振るわれてきた海堂の心は既に限界を超えていた。


ぼろり、一粒流れた大きな涙は、ぼろりぼろりと数を増やしていく。


やがて嗚咽も溢れて、かみ締めて、涙を流していく。


帝王は静かに、海堂の頭を撫で続けていた。
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