本編
□第九話 恐怖[前]
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「大変なことになったね」
真っ暗な視界に声が響いた。
「イツキちゃん、誰も入ってこないように見張っててね」
「おう」
人の姿がぼんやりと映った。
相手が何かに気づいたように首を傾げた。
ようやく状況を把握できる程度にアレンは覚醒した。
ベッド脇に立つコムイの手には、大きなドリルが握られていた。
「や。目が覚めちゃったかい?」
「コムイさん!?え?ここどこ!?」
アレンの背中に嫌な汗が流れる。
「ここ?病院だよ」
コムイはどうやらアレンが目覚める前にコトを済ませようとしていたらしく、一旦ドリルは置き、椅子に腰を下ろした。
「アレン!目が覚めたのか?」
「イツキ!」
部屋の外で誰も入ってこないように見張っていたイツキは、顔をのぞかせてアレンの覚醒を知った。
アレンは驚きに目を見開く。
どうしてここに、と問えば、イツキは中に入ってきて椅子に腰を下ろした。
「集中訓練を終えたイツキちゃんに君たちの後を追ってもらったんだ。」
「だけど、アタシが街に入った途端、元に戻っちゃってな。結局やることなしだよ。」
イツキは肩をすくめて笑った。
「だけど、君の報告は的確でわかりやすかったよ。アレン君も、任務遂行ご苦労だったね。」
コムイのフォローに、イツキはさんきゅ、と礼を言った。
「街が戻ったんですか!?」
アレンは軋む体を起こした。
イツキはアレンの背中に手を添えて、助けた。
「すみません…」
助けられたことにそう言えば、イツキは気にするなとでも言うように微笑んだ。
「ミランダなら、もう行っちゃったよ?」
「擦れ違っちゃったね」
そういえば、とアレンは不思議に思った。
「コムイさんはなぜここに…」
「もちろんアレンくんを修理しに」
ハートマーク付きで親指を立てられて、アレンの背筋が凍った。
神田に傷をつけられたときのことを思い出す。