本編

□第八話 性質[下]
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暗い闇の中、神田は一人六幻を持って立っていた。
眉をしかめて辺りを見回すが何一つ見えない。

恐怖はない。

しかし、警戒心は前面に出していた。
何か蠢く物の気配がするからだ。

六幻を握り直して、回りに気を巡らせる。

その時。
一筋の光が神田に差した。



『っ…?』



光は細く、頼りなげだけれども、真っ直ぐ神田に差し込んでいた。
それと同時に音が聞こえてきた。



『…唄?』



人の声にしてははっきりしないが、唄だと言われれば唄に聞こえた。
その唄は光の方から聞こえてきて、神田は警戒心を持ちながらも足を踏み出した。

途端に、周りが明るくなり、周囲の様子が突然はっきりした。



『…っ!』



神田の周りにはアクマがひしめき、全ての目が神田に向けられていた。
レベル1からレベル3まで、数多のアクマがじっと神田を見つめる。
さすがの神田も、この数にはじわりと汗をかく。



『…?』



しかしアクマは襲いかかってくる気配がない。
神田は訝しげにアクマを見渡す。



やがて全ての暗闇が




微かな音だった唄が、明確な声となって神田の耳に響く。
それに神田ははっとした。
同時に、か細かった光が強く降り注いだ。



晴れる日が来ることを



あの日の自分に伝えたい




光は強く太くなり、神田は眩しさに目を細めた。



ここで待ってるから




神田は目を開けていられなくなり、


そこで夢は終わりを告げた。






誰だって皆不安で




唐突に目覚めた神田は、目の前の少女が歌っているのにしばらく気がつかなかった。
むしろ、自分が眠っていたことに驚きを覚えた。
人前でなど、眠った経験がなかったからだ。



誰だって弱いとこもある




少女の声は夢の中で響いた声そのもので、小さく口ずさむような声にも拘らず、よく響いた。



誰だって寂しがり屋



誰だってつまずいている




悪夢の感触は不思議とほとんどなく、少女 ―― ツバキの唄がより一層神田を穏やかにさせた ―― 神田の知らぬところで。







 
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