本編

□第八話 性質[下]
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こちらに来てからというもの、イツキ並にとは言わないが、屋根を飛び移るだけの運動神経が得られている。



「汽車が出てしまいますわ…」



ツバキは時計を確認して急ぐ。
団服のプリーツスカートをはためかせて橋を飛び出し、汽車に飛び乗った。

ツバキに与えられたのは、長袖のフィットスタイルジャケットにプリーツスカート、ロングブーツにタイツという組み合わせの団服だった。



バクバクと荒ぶる胸を押えて、車内に乗り込む。



「黒の教団の者ですわ。車内で他の方と落ち合う約束をしていますの」



ツバキはコムイに教えられた通りに乗務員に言った。
乗務員は天井から降りてきたツバキに驚いたが、ローズクロスにすぐさま態度を改めて、一つの客室の前まで案内してくれた。



「こちらです。」



そう言われて、ツバキは頷いた。
男だろうか、女だろうか。
期待と不安を携えて、扉をノックして開けた。



「…あなたは…」



眼光鋭くこちらを一瞥したのは、黒い長い髪を高く結い上げた男だった。



「さっさと閉めろ」



そう言われて、ツバキは後ろを振り返った。



「ありがとうございます」



乗務員にそう言って扉を閉めた。
ツバキは空いてる席 ―― 神田の向いに腰を下ろした。



「相楽ツバキと申します。今回はよろしくお願いします」



「…お前、あの時の女か。」



男はツバキを凝視して、驚いたように言った。
そう言われてツバキは首を傾げた。
そうしてしばらく男を見つめて、思い当たったように手を叩いた。



「"パッツン"さん!」



「斬るぞテメェ」



ユイが"パッツン"と言っていたのを思い出して言ってみたが、やっぱり怒られてしまったツバキ。
だが、ツバキは冗談ですわ、と言ってそんなこと気にも留めなかった。



「お名前を伺ってませんでしたわね。」



ニコリと笑って、お聞かせ願えます?、と問われて、神田は何故か無下にできなかった。



「…神田ユウ、だ。」



「神田さんはやはり日本人でしたのね。」



黒目黒髪、さらに名前の響きでツバキは判断し、それが正答だったので、神田は特に何も言わなかった。



「本部には戻られていないようですが、連続で任務をこなされているのですね」



そこでツバキはハッと気がついた。



「でしたら、お疲れですわね。どうぞお休みになって下さい」



ツバキは一方的にそう言って口を閉じ、流れる景色を眺め始めた。



―― なんだこの女



神田は心の中で訝しく思った。
しかし、前の任務の疲れもあってか、その静かな空気に神田はそっと目を閉じた。






 
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