本編

□第五話 開幕
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歌が聞こえてきてイツキは目を開いた。
ツバキだとわかるのに大して時間はかからなかった。

オペラ歌手を目指すツバキだが、なんでも歌う。
楽しそうに歌う姿が可愛らしくて、だけどオペラを歌う時はすごく頼もしくて。
あんな風に何かに夢中になれたらいいのにと、いつも思う。

右手を伸ばして月に翳した。



―― アタシにこの手が与えられた意味は、何?



『よお』



前触れもなしに声がかかって、イツキは飛び起きた。
生意気な面をした子供がそこにいた。



「お前…」



今まですっかり忘れていたが、この見た目は子供の創造主とかいうヤツが、三人をこの世界にとばしたのだ。



『なんとかやってるみたいじゃないか』



いかにもえらそうに言う彼にイツキは苦笑した。
もし今あの二人がいたら、創造主の偉そうな物言いにブチ切れていたかもしれない、と思ったからだ。



「なんとかって感じだよ。イノセンスが扱えるかどうか…」



『安心しろ、お前はれっきとした適合者だ。』



きっぱりとそう言われて、イツキは驚いた。



『この世界にもお前のイノセンスの適合者はいるが、おそらく…もうじき死ぬ。』



だからあっちから連れて来た、と言われて、イツキは目を見開いた。
胸に黒い感情が広がる。



「…アタシは、変わりってわけか。」



『残念だが、イノセンスはオマケだ』



イツキの心を見透かしたように創造主は言った。
その顔はいかにも楽しげで、悪戯をする子供のようであった。



「じゃあ、なんでアタシがここにいるんだ?」



『それはお前が一番理解してんじゃねぇの?』



イツキは眉をしかめた。
創造主は真剣な顔になって、話し始めた。



『この世界はお前が漫画で読んだ通りに進んで行く。人が死に、アクマに変えられ、人を殺す。そして最後には江戸のような町で溢れるんだ。エクソシストは疲弊し、戦死していく。残念ながら俺はそれを止める術を持ち合わせていない。』



創った本人なのに?、と思ったイツキの心が創造主にはもちろん分かったいた。



『俺の仕事は"創る"だけだ。俺に願えば青い薔薇だって造り出せる。だけど、その青い薔薇を売るか枯らすかは人間次第だ。』


 
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