本編

□第八話 性質[下]
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時間は少し戻って。


ドアの前に立って、ユイはドアの向こうを見つめていた。



―― ブックマンはいない筈



先ほど室長室に入っていくのを見たから、まだコムイと話している筈だ。



―― コンコン



「…」



ノックをするが、中から返事はない。
ユイは首を傾げた。

いないのだろうか?

そう思ってノブに手をかけた。
ドアは簡単に開き、在室を示した。



―― なんだ、いるじゃないの



ドアを開け放つと、室内の明りは消されていた。
正面の窓からの月明りだけで照らされた床には、乱雑に紙がばらまかれていた。
英字のものからわけのわからない言語の文字まで、色々なものが広げられていた。



「…うわ、…ラビ…?」



それらを踏まないように、かろうじて作られた道筋を歩いて、唯は入室した。
まさか鍵をかけないで外出はしないだろうから、いるはずだ。

案の定、ラビは二段ベッドに寄り掛かって、俯いていた。



―― 寝てるのかしら…?



そっと近寄ろうとして、ラビが微かに動いた。



「…何の用さね」



顔も上げずにラビは尋ねた。
ユイはラビの声がかかった"そこ"が境界線だと思い、足を止めた。



「ブックマンは…いないみたいね」



室長室に入って行ったのを見たが、理由としては一番無難だ。
ラビは顔を上げずに肯定する。



「ジジイならコムイんとこさ」



ユイからラビの表情は伺えない。

ユイは慰めようとか、励まそうとか、そんなことを考えて来たわけではなかった。
ただ、なんとなく、ラビが気になったのだ。



「…さっきは大変だったわね。あのアクマ、知り合いなの?」



こんなことを言っていいものなのかちょっと迷ったが、所詮、好奇心には勝てやしないのだ。
ラビはピクリと体を震わせて、顔を上げた。



「なんでそんなこと…」



知ってるんさ、と聞こうとしてラビの目にある物が飛び込んだ。


空色のゴーレム ――


先の戦いの最中に垣間見た、物。



「…、見てたってわけね」



ラビの表情が剣呑味を帯びた。


 
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