ハトアリ小説
□狂った人
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それはいつもと変わりない、優しく、穏やかな時間。
私は本を読み、彼はその姿を見つめる。
最初は見られると云うことに戸惑いも感じたが、もう慣れてしまった。
つくづく慣れは恐ろしいと思う。
そんな時、彼が口を開く。
「アリス、好きです」
それは、もう何回も何百回も聞いた愛の言葉。
「それ、何回も聞いたわよ」
「ええ、知っています。でも云い足りない。
だって好きなんです、愛しているんです」
彼は幸せそうに微笑む。
そんな所を見て、聞いて。
何度彼が狂っていると思ったのだろう。
私を愛して、狂った人。
「・・・私も、好きよ」
恥ずかしながらも、告げる。
狂っている彼を愛すと云うことは、自分も狂っていると云うこと。
そう知っていながらも彼を愛してしまった。
「僕は、貴方のためなら何でもしてあげたいんです。
貴方にだったら、殺されてもいいって、思ったんですよ」
優しく微笑むが、云っていることは笑えるような話じゃない。
狂気混じりの赤い目が、いつも以上に恐ろしく見えてぞっとする。
私を愛した故に、狂ってしまった人。
私になら殺されてもいい、そう云ってくれる貴方にときめく私も狂った人。
「ふふ・・・大好きです、アリス」
また愛の言葉を告げて、笑う。
そして私に口付ける。
私達は、愛し合うが故の狂い人。