精煉の道U
□傍にない温もりが、どうしようもなく恋しかった
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「んぁっ……あっ、ぁあ、キー、ス……っ…あぁあっ!」
高くなる熱と、まるで自分のものではないかのような甘く高い声。
彼に触れている所、触れられている所、そのすべてから。
感じて、感じて。どうしようもないくらい、彼の存在を感じて。
「ぁあっ! キース、キース……っあ、あぁあんっ!」
「ディオン……っ」
強く抱きしめられて深くなる繋がりに、体は勝手に熱を上げ、自分の中にいる彼を締め付ける。
「キー……ス……っあぅ……んっ……!」
いつも取り分けて口数が多いわけでも少ないわけでもない彼は、今日はなぜかいつもにも増してあまり言葉を話さない。
その代わりに、ただ強く、強く、激しく求められた。
快感に喘ぐ中で、必死に彼の薄青の瞳を見つめる。
いつも冷やかな印象を与えるその瞳には、抑えきれない熱が浮かんでいて。
けれど同時に、別の何かも浮かんでいた。
「ディオン……ディオン……っ」
何度も自分の名を呼び、その逞しい腕に強く抱きしめられて。
自分を抱きしめるそんな彼に、ディオンはどこか縋られているような気がした。
いつも強くて、弱みなど見せない彼が。
「キース……んっ……ぁんんっ……っ」
何か言おうとしたけれど、それは彼の唇に阻止される。
口内を荒らす熱い舌が、まるで足りないというように自分の舌を絡め取り、何度も唇を吸い上げる。
彼の首に絡めた腕に、自然と力がこもった。
彼に与えられる恍惚とした快感に翻弄される中で。
足りないと、強く求められ。同時にディオンは、彼に縋られているような気がした。
そして唐突に、胸に重い塊がわき上がる。
なんだか無性に怖くなって、ディオンは抱きつく腕に力を込めて、隙間などなくなるようにもっと密着する。
いつもはただ、幸せを感じられるこの行為に。
ディオンは今、ひどく心が掻き乱れていた。
「キース……っ、」
根拠も理由もわからないその感情にたまらなくなって、ディオンは彼を呼んだ。
「どうした……?」
いつもと同じ。けれど熱に浮かされたように掠れた、大好きな声。
その声にすら、不安を覚えてしまった。
「やだ……いや、いやだ……っ」
自分でも何を言っているのか理解する前に、「嫌だ」と思った感情をそのまま言葉にしていた。
怪訝そうに僅かに目を眇めた彼に、ディオンは知らず、快感からくる以外の理由から、涙した。
「こ、こに、いて……っ!」
強くその体に縋って、ディオンは絞り出すように言った。
何の根拠も、理由もわからないけれど。
――――なぜか、彼が遠くに言ってしまうのではないかと。
本当に唐突に、そんな不安に襲われた。
「どこにもいかないでっ……そばに……っ、いさせ、てっ……!」
あふれる涙に、ディオンは目を閉じた。
「ディオン……」
柔らかく包むような、大好きな声が耳元でする。
「ディオン、愛している」
「ぁあっ……あ、きー、す……きーすっ!」
今までよりずっと激しく、なのにどこかやさしく求められ、ディオンの思考が彼の色に染まる。
ああ、どうか。どこにも行かないで。そばにいて。そばにいさせて。
どうしようもなくそう思うのに。
「愛しているから………」
繰り返し愛をささやくその声は、決して「うん」とは言ってくれなかった。
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