精煉の道

□苦い、けど嫌いじゃない
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《苦い、けど嫌いじゃない》










さっきからじーっと見詰めてくる紫の瞳が、気になる。


何かを言うでもなく、ただじーっと見てくるだけ。


「……何?」


カイルは軽く首を傾げて、じーっと穴が開きそうなほど見詰めてくるディオンを見た。


ここは〈蒼い鷹〉宿舎のカイルの部屋だ。


その部屋で、カイルと向かい合うようにしてソファに座っている黒髪の少年。


「……いや、別に」


別に、と言いながら、彼の紫の瞳はじーっとカイルに注がれている。


いや、カイルと言うより、カイルの手元……。


「……気になるのか?」


緩く紫煙をくゆらせている細い紙巻き煙草が。


尋ねながら、カイルは煙草を口に持っていき、慣れた様子で息を吸う。


「……それ、おいしいの?」


じーっと見ていたかと思えば、ディオンは逆に訊いてきた。



「いや、美味くはないな」


答えると、まだ未成年の少年は不思議そうに首を傾げた。


「じゃあ、何で吸うのさ。大人って、おいしくないものを進んで吸うの?」


「別になー。美味い美味くないというより……癖になってるというか……」


カイルは曖昧に言う。


「でも、何か身体に悪そう」


というか、絶対に悪いだろう。


「まあ、良くはないだろうな。……お前も吸ってみるか?」


少し顔をしかめて言うディオンに、カイルは何の気なしに言ってみる。


「え、いいよ」


ディオンは首を振って拒否する。


それを見て、カイルはふと思いついた。


「ディオン、ちょっと来い」


向いに座るディオンを手招く。


「何?」


近付いてくるディオンを見ながら、カイルは銜えていた煙草をすっと吸い込んだ。


「なに…、わっ!……んぅっ……!?」


近付いてきたディオンの腕を引っ張り、逃げられないように後頭部をしっかりと押さえ、カイルはその唇を自分の唇で塞いだ。


いきなりのことで薄く開いていた唇を割って、吐息ごと舌を滑り込ませる。


「んっ……ふぅ…ぁっ……んんっ……ふぁ……っ」


自分が吸い込んだ煙草の味を教えるように、角度を変えて何度も口づけ、舌を絡ませた。


「はぅ……っん、…はぁ……んぁっ」


たっぷり堪能して、カイルが唇を離すと、酸欠で真っ赤になったディオンが生理的な涙の浮かんだ瞳で見上げてきた。


「どうだ? 大人の味」


笑いながら聞くと、ディオンは涙で潤む紫の瞳で、キッとカイルを睨んだ。


「〜〜〜に、苦い……っ!」


恥ずかしさからか、それとも本当に苦すぎたのか、ディオンはきっぱりと言う。


「そりゃ、甘くはないだろうな」


クスクスと笑うと、ディオンは悔しそうな、不機嫌そうな顔になった。


「………苦いから、もう大佐とはキスしない」


からかわれたことに気付いたディオンは、ふてくされたようにそっぽを向く。


「それは、ちょっと困るな」


それでもまだ笑っているカイルに、ディオンはますます膨れた。


「俺、煙草嫌いだ」


「苦いから?」


「苦いから」


「ふーん……じゃあ、俺とのキスも嫌いか?」


カイルは意地悪そうな笑みを浮かべた。


「………き、きらい……」


「ん?」


「………………………じゃ、ない」


ハシバミ色の瞳にじっと見つめられ、ディオンは頬を赤くしたまま悔しそうにつぶやく。


「でも、やっぱり煙草は嫌いだ!」


やけっぱちのように叫んで、ディオンはカイルの手から煙草を奪った。


「でもなー、ないと口寂しいんだよ」


「知らないっ」


ふん、と鼻を鳴らして、ディオンはテーブルの上にあった灰皿に、たった今までカイルが吹かしていた煙草を押し付けて消す。


「じゃあ、代用品くれよ」


「は?」


怪訝そうな顔をしたディオンの唇に、軽く舐めるように自分のそれを触れ合わせた。


「煙草嫌いなら、俺が煙草吸わなくていいように、これからは口寂しくなったらお前に頼むわ」


「な、何言って……んっ……」


ちゅっと音を立てて再び口づけ、カイルはニヤリと笑う。


意味を理解したディオンは、耳まで真っ赤になった。


反射的に逃げようとした愛しい少年をがっちり捕まえ、


「お前が言ったんだからな」


カイルは心底楽しそうにそう言った。













(た、たまになら吸ってもいいから!)(へえ、いいんだ。でも苦いのは嫌なんだろ?)(うっ……そ、だけど……)(諦めろ。言いだしっぺはお前だ)












Fin.








あとがき。


ちょっとありきたりかもだけど、定番をば。
あと、煙草吸ってるのはキースくらいですかね。
よし、次はキースverを書こう。




ありがとうございました。




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