精煉の道
□無防備な君
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《無防備な君》
ディオンは、不満もあらわにずんずんと廊下を歩いていた。
今日はたまの休日で、いつもの軍服ではなく私服姿だった。
「……まったく、失礼にもほどがあるだろっ」
ディオンが怒っているのには、理由があった。
さっき、会うともなしに会った《蒼い鷹》隊員の仲間に言われたのだ。
「ディオンって、見ようによっては女の子みたいだよな」と――――。
確かに、いつもの軍服ではなく、白いシャツに濃い色のズボン、淡色の上着というラフな格好のディオンは、
遠目から見ると、その女性的な顔立ちと相俟(あいま)って、男装の少女に見えなくもない。
中身はまるっきり小生意気な少年なので、いつもは誰もそんなことは思わないのだが。
「だーれが、女みたいだって!? 俺よりユアンのほうがよっぽど女の人みたいじゃないか!?」
甚だ失礼なことを言っているのだが、今のディオンはそんなことにも気付かない。
「……中将も、俺のこと女みたいとか思ってんのかな……」
ふと足を止めて、ディオンは呟いた。
いつも無表情の、薄氷の瞳を持つ美貌の上官を思い浮かべる。
キース・アーベルン中将。ディオンの上官で、ひそかに恋人関係にある人物だ。
ともするとそこらの女性より美しい顔の彼は、それこそ、見ようによってはディオンなどより余程女に見える。
しかし、ディオンは彼が女っぽいとは思ったことはないし、むしろ誰よりもカッコイイと思っている。
もしも彼に、さっきの隊員たちが言ったように女みたいだと思われているとしたら――――。
「……すっげー、ショック……」
ずーんと沈んだ様子のディオン。
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