精煉の道
□守られてはくれない君に
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あいつはいつも笑ってる。
何があっても、絶対に前を見ている。
人を殺すのが大嫌いで、真っ直ぐな目を持っている。
そのくせ結構腕は立つ。今、戦闘を仕込んでいるのは俺だけど。
強くなければ軍ではやっていけない。
守られるようなやつじゃないって判ってるけど。
それでも、守ってやりたいと思うのは、きっとお前だからだな。
《守られてはくれない君に》
カイルは、休憩中に人気のない庭の木陰に座っていた。
日差しは柔らかく、風は心地良い。
両手を頭の後ろで組んで、木にもたれて目を閉じると、小さく軽やかな小鳥のさえずりが聞こえた。
……だいぶ強くなったな。射撃の腕も上がったし。
カイルは、ふと一人の少年のことを考えていた。
黒い髪に深い紫の瞳を持つ少年。
ひょんな事から、黒雷獣《スルト》を復活させようとしているムスベル人に両手を手術され、玲石《クレイノッド》を生め込まれた。
現在は、カイルの所属する《蒼い鷹》の新入隊員として頑張っている。
山で猟師をしていたという彼は、身のこなしはまるで野生児。
熊や猪とナイフ一本で戦えるくらい、格闘センスは抜群だ。
射撃の腕は、いつも二連射の散弾銃を使っていたらしいので、カイルほどではないにしろ、それなりに上手かった。
今はカイルに仕込まれているので、その腕も日々向上している。
ふいに、カイルはクックッと笑った。
昨日の戦闘訓練で、その少年はカイルにこてんぱに伸された。
一対一での戦闘訓練だったので、カイルとその少年が戦ったのだ。
なかなか良い動きをしていたが、戦闘では経験の差が物を言う。
負けた少年は、悔しそうに歯噛みしていた。
「絶対いつか大佐のこと負かしてやる」と、挑むように言ってきたその顔に、カイルは満足げに笑ったのだ。
何度負けても諦めないその根性も気に入っている。
軍の中では、その少年を、「大佐の秘蔵っ子」だと言っている者もいるらしい。
……まあ、あながち間違いじゃねぇな。
クックと笑ったとき、ふと、近くに人の気配を感じた。
閉じていた目を開けて、気配のするほうを見遣る。
「………あれ、大佐?」
現れたのは、たった今まで考えていた少年――――ディオンだった。
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