精煉の道

□守られてはくれない君に
1ページ/2ページ




あいつはいつも笑ってる。


何があっても、絶対に前を見ている。


人を殺すのが大嫌いで、真っ直ぐな目を持っている。


そのくせ結構腕は立つ。今、戦闘を仕込んでいるのは俺だけど。


強くなければ軍ではやっていけない。


守られるようなやつじゃないって判ってるけど。




それでも、守ってやりたいと思うのは、きっとお前だからだな。









《守られてはくれない君に》









カイルは、休憩中に人気のない庭の木陰に座っていた。


日差しは柔らかく、風は心地良い。


両手を頭の後ろで組んで、木にもたれて目を閉じると、小さく軽やかな小鳥のさえずりが聞こえた。


……だいぶ強くなったな。射撃の腕も上がったし。


カイルは、ふと一人の少年のことを考えていた。


黒い髪に深い紫の瞳を持つ少年。


ひょんな事から、黒雷獣《スルト》を復活させようとしているムスベル人に両手を手術され、玲石《クレイノッド》を生め込まれた。


現在は、カイルの所属する《蒼い鷹》の新入隊員として頑張っている。


山で猟師をしていたという彼は、身のこなしはまるで野生児。


熊や猪とナイフ一本で戦えるくらい、格闘センスは抜群だ。


射撃の腕は、いつも二連射の散弾銃を使っていたらしいので、カイルほどではないにしろ、それなりに上手かった。


今はカイルに仕込まれているので、その腕も日々向上している。


ふいに、カイルはクックッと笑った。


昨日の戦闘訓練で、その少年はカイルにこてんぱに伸された。


一対一での戦闘訓練だったので、カイルとその少年が戦ったのだ。


なかなか良い動きをしていたが、戦闘では経験の差が物を言う。


負けた少年は、悔しそうに歯噛みしていた。


「絶対いつか大佐のこと負かしてやる」と、挑むように言ってきたその顔に、カイルは満足げに笑ったのだ。


何度負けても諦めないその根性も気に入っている。


軍の中では、その少年を、「大佐の秘蔵っ子」だと言っている者もいるらしい。


……まあ、あながち間違いじゃねぇな。


クックと笑ったとき、ふと、近くに人の気配を感じた。


閉じていた目を開けて、気配のするほうを見遣る。


「………あれ、大佐?」


現れたのは、たった今まで考えていた少年――――ディオンだった。









.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ