精煉の道U
□ある日の執務室
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《ある日の執務室》
―――ああ、イライラする。
キースは、目の前の書類の山を半眼で睨み、疲れたような溜息を吐いた。
ここ最近、デスクワークが終わらない。
後から後から仕事が来て、正直いい加減嫌になってきた。
しかし、これも仕事。
やらないわけにはいかない。
とはいっても、キースだって人間だ。
嫌気がさす時だってある。
それに何より―――。
(……ディオンに会いたい)
キースは、書類にペンを走らせながら頭の片隅でそう呟いた。
ずっと書類仕事ばかりで、《蒼い鷹》の定時連絡と点呼の時に会ってはいるが、あまり話す時間もないし、夜だって最近は会えていない。
―――ああ、イライラする。この書類の山が恨めしい。
こんなに仕事が恨めしいと思ったのは、初めてかもしれない。
しつこいようだがキースだって人間なのだ。
この書類のせいでディオンに会う時間が減っていると思うと、今すぐ焼却炉にでも放り込んで灰にしてやりたくなる。
しかしそんなことができないのが現実。
(………腹立つ)
ペンを持つ手に知らず力が入った。
キースは気付いていないが、無表情な眉間にはわずかにしわが寄っているし、薄青の瞳は明らかに不機嫌だ。
心なしかにじみ出るオーラまで不機嫌そう。
と、ふいにキースの執務室の扉がノックされた。
声をかけると、入ってきたのは腐れ縁の親友。
「よっ。どうだ?」
「…………カイル」
相変わらずな親友に、キースは若干目を眇めてから、小さく息を吐く。
一瞬期待した自分に悲しくなる。
(ディオンが来るわけがないのにな……)
あの子は基本的に仕事の用以外でキースの執務室には来ない。
緊急時でもなければ特別任務についているわけでもない今日、ここに来るわけがないのに。
(末期だ……)
キースは少し自分が情けなくなった。
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